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夏目房之介の「で?」

ジャン-マリ・ブイスー氏の発表概要3

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●主要国のBD出版数
・日本 人口あたり15冊(1995年 現在は10冊)
・フランス  ゝ 1冊(ゝ      1.5冊)
・アメリカ  ゝ 1冊   ※訂正 3冊

●フランスのマンガ市場:価格
・マンガ単行本1巻あたりのページ数と価格:250ページ、7ユーロ(約900円)
・仏BD                :46~60ページ、12ユーロ
・マンガ単行本1ページあたり単価はBDの1/8

●BDと日本マンガの比較 カラーで絵画的な繊細な絵と白黒の簡略で奥行きのない絵

 BDのほうが単価の高い理由がある。

●フランスのマンガ市場:製品サイクル
・マンガ作品の出版ペース:新刊発売は3か月ごと (工業製品)
・仏BD        :     1~2年に1回(文化商品)
 (1年に46ページでも生活できるフランスの事情)
結論:マンガには読者を中毒状態にすることが可能だが、BDでは難しい

●『AKIRA』(大友克洋):公式に仏語訳された最初のマンガ(1990年)
 2つのバージョンで刊行
 ①仏BDアルバム式(カラー、左開き、2カ月に1回刊 当時40歳前後のBDファン向け)
 ②日本マンガ式(雑誌形式、白黒、右開き、毎週刊行 日本アニメ世代向け)
・1996年:40作品が新たに仏語翻訳出版
・2008年:1288作品が仏語翻訳出版(同年出版の仏BDの36%が日本マンガ)

●マンガをきっかけに新たに日本に関心を持つようになったフランス人
 マンガネットワーク調べ(2006~2007)
・54%のフランス人がマンガを読み始める前に全く日本に関心がなかったと回答
・約20%のフランス人が、マンガを読み始める前から日本に多少の関心はあったと回答。
・マンガを読み始める前にすでに日本に強い関心を持っていたフランス人は5%

●マンガのフランス人読者像とは?
・調査に回答した仏読者の平均年齢22歳。最年長40歳、最年少9歳。
・33%の読者が社会人
・女性読者より少し男性読者が多い(男性読者52%、女性読者48%)
・75%の読者が50歳以降もマンガを読み続けていると思うと回答。

・11%が経済的・社会的に恵まれない階層の読者
・24%が中間庶民階層の読者
・27%が小有産階級の読者
・10%が大有産階級の読者
・7.5%が知的職業階層の読者
・6%が映像・アニメ関連業界で働く読者
・14.5%無回答

 ※夏目質問「読者の「階層」分類についてコメントを」
 我々は、おもに読者自身の職業、あるいは両親の職業を基準に階層を分類した。もちろん回答をしない人も多いし、この種の質問回答は困難なものである。
「恵まれない階層」とは、回答に失業中、無職、母親が飲食店勤務である者や、その住宅地域を勘案した。「中間庶民階層」はおもに職人、トラック運転手など、「小有産階級」は公務員、自営業、「大有産階級」は会社経営、医者、あるいはたとえばパリ16区在住者など。「知的職業階層」は教員、メディア関係など。分類は文化的なものに接する整備の度合いを考えた。

 フランスでは、日本マンガへのバッシングは右派のが外国物を嫌う場合もあるが、もっとも厳しいそれは左派によるものだった。左派は民衆への高級芸術のアクセス権を伝統的に主張しており、教育システムへの影響力が大きかった。

●セゴレン・ロワキヤル女史著『テレビをザッピングしてみているベビーたちはうんざりしている』画像

 セゴレン・ロワイヤル氏は、ミッテランのアドバイザーを務め、2007年には大統領選に立候補した。彼女はこの本で日本アニメを批判、知性が低下し、学業に専念できないとした。90年代半ば、「ル・モンド」の「デイプロマティーク」誌でも日本マンガ・アニメは暴力的であり、これは日本によるフランスの知能低下戦略であるとの主張があった。
 ところが2009年の「ル・モンド」誌には「日本のポップカルチャーはいかにしてフランスを制したか?」という特集が組まれ、マンガ成功への驚きや興味が表現され、「ナショナル・ジオグラフィック フランス版」でも日本特集があって、私に「読者に勧めるマンガ」記事の依頼があったりする。保守的とされる「マダム・フィガロ」でさえマンガ評が載るようになった。

●マンガとBD:winwin関係?
・フランス人マンガ読者の30%が、マンガを読み始める前はフランスのBDを読んでいなかったと回答。つまりマンガをきっかけにBDは新たな読者を獲得した。2000年以降のBD出版社数は140-254社へと80%増加。
・マンガ読者の50%がBDを読んでいないと回答。過去にはBD読者であったフランス人の一部がマンガを読み始めることでBDを離れた。BD作家は昔からの読者を失った。

 ※鵜野氏補足 BDが一時衰退した80年代〜90年代前半に思春期を過ごしたマンガ世代は元からあまりBDを読んでいなかったのではないか。

・BD売上はマンガ売上と平行して伸びた。
(2000年には約800の新作が出版され、2008年には約2200タイトルへと増加)
・マンガに影響を受ける形で、BD自体のイメージが大人向けのBDへと変化。フランス人の間でBDを再認識し尊重する傾向が現れた。
・BD作家は新しい読者を獲得し、またBDの社会的地位も高まった。2000年以降BD作家の数は1100人から1325人へと20%増加。

 最後に、マンガ・ネットワークはサイトで検索すれ英文を含む論文なども読めるので、アクセスしてほしい。

↓『MANGA NETWORK』のHP
http://www.ceri-sciencespo.com/themes/manga/index.php

↓『MANGA NETWORK』内の論文のページ
http://www.ceri-sciencespo.com/themes/manga/publications.php

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