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夏目房之介の「で?」

講談社「セオリー」vol.5「名家・名門の秘密」特集号に漱石財団関連記事

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 9月26日発行の同号記事「偉大なる「先祖」は誰のもの? 「岡本太郎」「夏目漱石」を守るのは大変です」の中で、岡本太郎記念現代芸術振興財団(96年設立)に関する記事(記念館と財団を継承した平野暁臣氏の取材中心)に続き、公益財団法人制度が06年に法改正され、08年12月発効し「公益財団法人」と「一般財団法人」に分類された経緯と、その問題点、さらに漱石財団設立を巡るニュース紹介の流れで、私の主張も含めて書かれています。

 結論的な部分では、こう解説されています。

『夏目漱石財団』に対しての夏目房之介氏の「待った」は、夏目漱石は、もはや日本の共有文化財産である、それ故に誤解されようが、美化されようが、それはそれでいいのではないか、という意思と哲学を持って『管理しない』という方法を選んでいる。「漱石」は既にそれらに耐えうる強度を備えていると信じているからだろう。一方、平野氏は、意思と哲学を持って岡本太郎を『管理する』最善の方法を模索しながら活動を続けている。一見、対極に見えるが、その志の高さは共通している。〉同誌 117p

 記事を読んだかぎり、平野氏の見解は基本的に正当なものだと思います。また記事も問題提起を含むバランスのとれたものです。著作権の生きている岡本太郎と、既にとっくに切れており、著作やイメージの利用が社会に多く生じている漱石では、対応が異なるのが自然だろうと思います。

 じつは、この記者から私も取材依頼を受けていました。が、特集の「名家・名門」というくくりから、「お家騒動」的な扱いで記事化される恐れを感じたのと、取材依頼当時、財団問題について非常に微妙な段階にあったために、考えた末、かなり長いお断りの文章をもって見送りました。

 記事中、〈公益認定取得や社団・財団・NPO法人の設立運営の支援、コンサルティングを行う「公益総研」の代表・主席研究員の福島達也氏〉と紹介される福島氏は、今回施行された制度新法について〈矛盾だらけ〉と指摘しているそうです。

 〈監督官庁の許認可が必要な公益財団法人と、監視する機関がなく、設立のハードルが低い一般財団法人は、個人からの寄付控除や利子税の有無を除けば、メリットにそれほど差はありません〉(福島氏発言)

 つまり、財団という同じ名前の法人組織ながら、前者は既存の財団同様にハードルが高く、一般財団は監督なく誰でも比較的簡単に設立できる。これが、どういう意図による法制化か、素人の私にはよくわかりませんが、要するにNPOのような組織を作りやすくした規制緩和の一環と考えていいようです。問題は、そのことによって、今回の漱石財団のような、私の見る限り杜撰な財団設立が、何のチェックもなく行われ、知らないうちに権利を主張する事態が起きうるということで、その点について今後も議論が必要なのではないかと思います。

なお、漱石財団問題の経緯についても、続いてご報告する予定です。

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