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夏目房之介の「で?」

DVD『ウォルト・ディズニー・トレジャーズ オズワルド』

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昨日の日曜、日帰りの仕事だったんで、今日はお休み。午後、エドワードのとこでメンテナンス。
で、その前に渋谷のTSUYAYAで「ものまね王座決定戦」のDVDを買おうかどうしようか、さんざん迷ってやめ、他のDVDを見ているうちに、『ウォルト・ディズニー・トレジャーズ オズワルド』を発見。http://tanpopo-tane.com/present/present-1185-0.htm
ミッキー・マウスを作る前のアニメ・キャラクター「オズワルド」のDVD。この作品は成功したが、配給会社にスタジオ・スタッフとキャラクターの権利を奪われ、その後、ミッキーを売り出したという因縁の作品。話は知っていたが、作品は未見だったし、2枚組みの第二部には、初期ディズニー作品の共同制作者で天才的なアニメーターとして知られるアブ・アイワークスのドキュメンタリーが入っている。これは、欲しい!

で、面白かった。まず「オズワルド」は各篇5分ほどだが、思ったより面白いし興味深い。この作品の権利をディズミーが数年前に獲得して、リリースできたものらしい。知らなかった。
また、2部にはそれ以前に作られた実写の女の子とアニメによる「アリス」シリーズも入っている。

けれど、何といってもアブ・アイワークスのドキュメンタリーは、僕としては知らなかった話ばかりで、じつに面白かった。じつは初期ディズニー作品はほとんど彼の功績だし、ミッキーも彼の創造したキャラクターなんである(このへんは知ってた)。彼の作品の驚異的な「ヘンさ」は、ちょっと凄い。体がバラバラになったり、取り外し可能だったり、エロかったりする要素は、1920~30年代の米アニメの世界をうかがわせてくれて、資料としても貴重。大戦直前、これらの奔放な表現に映画業界による自主規制がかかり、アニメが完全に「子供のもの」になったという言及もあって、興味深い。
かつ、ディズニーと袂をわかったのち、独自のアニメを発表し、さらにスタジオをたたんで映像的な技術開発に向かい、もう一度ディズニーに戻って多くの技術革新をなしとげたあたりは、驚嘆すべきものだった。マルチ・プレーンの原型のようなシステムを開発したり、実写との合成技術でアカデミーを獲得し、ゼロックスと協力して原画をセルに書き写す必要のない、原画家の線をそのまま使えるようになったシステムも彼のアイデアだったと、はじめて知った。
後者は、ディズニーでは『101匹わんちゃん』で使われたものだが、60年代後半には日本のTVアニメにも導入され、荒々しい劇画的な線を生かせることになった技術のはず。

ところで、27年の「オズワルド」シリーズなどを見ていて、いくつか気づいたことがある。
汗など、かなり多くの形喩が使われていたり、圧倒的な遠近法による主観ショット的な効果、顔がこちらに向かって突進してアップになり、口の中にカメラアイが入っていくような表現など、日本マンガにも影響したと思われる表現を多く確認できた。
また、意外なほどに、右から左に向かう場面が多かったのも、ちょっと不思議だった。数えたわけじゃないけど、左→右の運動より、かなり多かったような気がする。コミック・ストリップだと、おそらく左→右が多いだろうと思うのだが(検証してはいない)、アニメでは逆の場合も多かったんだろうか。このへん、誰か研究してたりしないのかな。

いずれにしても、このDVDはめっけもんでした。そのうち、ゼミの人たちにも見せたいですけどね。夏休みにでも上映しますかね。

そうそう。資料映像で昔のアニメのキャラが色々出てきたのだが、その多くに記憶があった。なぜかというと、何度も眺めた手塚『フィルムは生きている』の単行本の表紙に、それらが描かれていたからだ。手塚さんは、一体これらを覚えていたんだろうか、それとも資料があったのかな。

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