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夏目房之介の「で?」

メビウス×浦沢シンポ補遺

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遣り残したこと。その1。

メビウス氏は、太極拳をやっていたと聞いて、誕生パーティの折に「今も続けてますか?」と聞いたら、残念ながら今はやっていない、忙しいので、とのことだった。
でも、シンポで聞くかもしれない、と伝えてあった。
シンポでは、「メタル・ユルラン」でメビウスとして何をやろうとしたのかという問いに答え、子供向けだったBDと、アートを架橋したいのだと、メビウス氏はいわれた。また、線の、意図できない生成についての話もされたので、太極拳の話をふって、身体や運動の内的認識と線の生成や絵の運動についてつなげてみたかった。できれば浦沢氏の「描かれる線に必要のないものはない、すべてを司りたいのだ」という、いわば作家が線を描くときの絶対性の問題もからめる形で、それが同時に意図せざる生成でもありうるという観点に、互いに絵を描きつつ至りつければ、最高だな、とひそかに思っていたが、残念ながらその時間はなかった。
メビウス氏にとっては、太極拳の含む陰陽の関係論でいえば通じると思ったのだだけどね。もしそこまで行ければ、これ以上はなかったろう。
でも、このセッションはまるでジャズのインプロビゼーションの交換のようなドライブ感があって、不満はない。

終了後のパーティで、BDとアートの架橋の話に感動したと話してくれた作家さんがいた。
田村吉康さんで、ジャンプで『筆神』というマンガを描きつつ、絵画も個展を開いているという人だった。その両極をどう折り合わせるかで、すごく悩んでいたが、とても刺激されたといってくれて嬉しかった。

メビウス氏は、連日のハードスケジュールで、じつはシンポ当日の朝、腰を痛めていた。
僕が「太極拳をまたやるべきですね」と語りかけると「まったく、そうだね」と苦笑しながら、少しマネをしてみせてくれた。あれ、見てたの僕だけかもしれない。

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