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夏目房之介の「で?」

完全復刻版『新寶島』と『PLUTO』07

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手塚治虫/浦沢直樹『PLUTO』07、やっとプルートの全体が見えました。それはともかく、付録ですよ、付録。「PLUTO」設定画集。浦沢/長崎の現時点での対談つき。これが面白い。企画から連載にかけての編集者と漫画家のやり取りが、かなりこと細かに、双方から発言されていて、マンガ編集者論の観点からも貴重な証言です。まさかと思っていた企画が通り、かえって重圧で具合が悪くなった浦沢に対し、長崎は「楽しくてしょうがなかった」というが、じつはここしばらく(ゲジヒトがいなくなってから?)すごく苦しかった、と述べている。でも、どっちか一人が楽しくて、いくらでも引き出しがあるような顔をしていないといけないから、我慢して楽しいフリしていたという話なんか、編集と作家の関係を考えるいい資料ですな。

あと、浦沢が何十憶ってお金がかかる映画とかと違って、マンガはそのプレッシャーがない分、「ダメだったら、次」みたいな「失敗への寛容さ」があるし、それが〈自由な表現媒体たる理由〉でもあるけど、今回は売れないといけないというプレッシャーがあった、と話しているあたり、このコンビはさすがだなあと思わせる。

対談の最終ページ、二人の手塚愛と、それを乗り越えるんだという話は、ちょっとクルものがある。手塚の神話化について、批評家・研究者としては冷静でいないといけないんだけど、やっぱり手塚を愛する者としてはね。浦沢の中にいる手塚の目は、凄く厳しい。

あと、設定イメージで描かれた「手塚マンガ風のゲジヒト」と殺人を犯して破壊されたロボット「ブロウ」のスケッチ。なるほど、ブロウはもとは手塚風のマシンだったのねー、と納得。お茶の水が手塚さんだったというのも、なるほど。

さて、完全復刻版『新寶島』豪華限定版(7980円 小学館)買いましたよ。詳しくは「漫棚通信」さんで→ http://mandanatsusin.cocolog-nifty.com/

漫棚さんは、戦時中に描かれた『オヤヂの宝島』をすでに持っているらしいけど、僕は未見なので、これはお買い得。『新寶島』そのものは、むろん全集版だけではなく、元の版の某復刻を見ているけど、小冊子とはいえ別バージョンの赤本『タカラジマ』は未見だし、藤子不二雄F,A両氏、横尾忠則、竹内オサム、中野晴行の文章を収めた「読本」も貴重。「読本」は、廉価版(2000円)にもついているはず。酒井七馬と手塚の関係を探った中野の仮説はかなり興味深い。

追伸

知人よりご通達あり。
「DVD手塚全集の付録になった『オヤヂの宝島』の解説を書いてるのは、他ならぬ夏目さんですよ。コマの数のこととか、遠景のこととか・・・・」
うそぉ~~。でも、そうらしい。まだ解説を自分で確認してないが(多分送ってもらってると思うので)、読んでたこと完全に忘れてる。参ったなー。読めば思い出すだろうけど、記憶力がないっていっても、こりゃひどい。

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