オルタナティブ・ブログ > 夏目房之介の「で?」 >

夏目房之介の「で?」

NHK放送文化研究所ワークショップ

»

「テレビにおける「役割語」はどう使われているのか ~オリンピック・スポーツ放送を中心に~」
「千代田放送会館」という施設でありまして、
私どもが普段 勤務している「NHK放送文化研究所」は、
港区愛宕にあります。(↓ご参考までに)
http://www.nhk.or.jp/bunken/about/about_index.html

朝7時に起きて(年に何度もない)、走圏練習だけして赤坂プリンス旧館近くのNHK放送文化研究所へ。こんなとこにあるんだね。つーかホテルみたい。政治報道系のスタジオもあり、専任研究員も40人ほどいて、世論調査などを中心に研究しているらしい。かつ、NHK職員でも希望して研究発表をするらしい。基礎研究やってるんだ。なるほど~、ダテにNHKやってるわけじゃないね。

訂正 すみません。会場は「千代田放送会館」という施設でした。
「NHK放送文化研究所」は、港区愛宕だそうです。↓
http://www.nhk.or.jp/bunken/about/about_index.html

「役割語」とは、ご一緒させていただいた金水敏教授(大阪大学大学院)が主張された、日本語でとくに見られる主語(私、僕、俺、わし、あたし・・・・など)や終助詞(だ、だぜ、です、ですわ、なのよ)による社会的な、あるいは場の文脈的なキャラクター、性差などを決定する話し方のパターンで、多くはじつは実際には使われなかったりする。外国語でも似た現象はあるが、日本語がもっとも多様ではないか、という。
この概念を使って研究員の太田眞希恵さんが北京五輪での外国スポーツ選手の発言の字幕を分析した発表をベースに、いろいろ話した。金水さんの「役割語」論は前に紹介した『マンガの中の〈他者〉』にある「・・・・アルよ」などの(にせ)中国人語の来歴(実は幕末横浜居留地の共通語だったものらしい)の論文で読んで面白いなーと思っていた。太田さんは、勝利したアスリートのテンションと、その自己主張やキャラ投影を「俺は・・・・だぜ!」などの字幕の役割語に見て、その分析を試みている。非常に興味深い発表だった。話が面白すぎて脳が刺激され、僕はやや暴走気味だったかもしれないが、多分聴衆にも面白かっただろうと思う。質疑の時間がなくなってしまったが、手をあげた人がけっこういた。会場には糸井重里さんの姿も。

何で僕が呼ばれたのかというと、戦後の役割語類型にマンガ・アニメの影響が大きいだろうとのことで、もちろん60年前後生まれ以降の世代が社会に実戦配備される80~90年代にははっきりそうだろうと思う。思い出すのは『ララミー牧場』のジェフで、彼の吹き替えではじめて外国人に江戸弁をしゃべらせ、キャラを強調したらしい。もっと前でいえば落語の田舎言葉なども、実際にはない方言風のなまり。でも、「役割語」の面白さは、じつにこれらフィクションの役割語と実際に話される場との両方にまたぐ領域に照準したときにあるような気がした。すごく面白いと同時に難しい領域だけどね。

ワークショップ後、昼食を金水さんらととり、さらに面白い話を色々伺った。「わしは・・・・なのじゃ!」という博士語は、戦前の海野十三作品で博士がしゃべる前には、予想どおり立川文庫あたりの戸沢白雲斎で、さらに幕末の歌舞伎まで遡るとか(記憶あってるかなー?)。
興味のある向きは金水さんの著書『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』(岩波書店)を参照のこと。僕もいただいたので、バリで読もうかな。

Comment(1)