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夏目房之介の「で?」

安彦良和『麗島夢譚』1とみなもと太郎『松吉伝』

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歴史物2冊。

安彦良和『麗島夢譚』1(徳間書店)
いってみれば「パイレーツ・オブ・カリビアン」まではいかないが、ややそれに近い荒唐無稽アクション歴史マンガといいますか・・・・。まず、主人公が鄭成功ってだけで、知ってる人はびっくり。こりゃまた凄いとこに目をつけたなー、と。で、若き松浦党の若殿の主人公、はっきりいえば海賊の若首領の周辺に、じつは島原の乱を生き延びてた天草四郎に、彼を脱出させた謎の忍者、さらには足を悪くして漂白してきた宮本武蔵・・・・。なかなか楽しい設定で期待させるが、例によって主人公の少年がアクションの中でやたらと叫ぶ。僕にはこれがちょっとうるさい。他の人物はいいんだけどねー。新興オランダの世界制覇の陰謀と台湾を巡る海洋歴史マンガになるはずの今後が楽しみ。

みなもと太郎『松吉伝』(みにゃもと)
みなもと先生、いつも同人誌送っていただいてありがとうございます。
『松吉伝』は、みなもと先生のご祖父の話。これが、ああた驚き桃の木山椒の木。なあんと、あの日露戦争のときに欧州で後方擾乱の諜報活動をしロシア革命を後押ししたという明石元二郎(詳しくは司馬遼太郎『坂の上の雲』参照)の部下で、謎の期間にアジアで活動してたらしいという・・・・うわー。生涯語らなかったその頃の話で、みなもと先生のご尊父がかろうじて聞きだしたのが「明石閣下の功労があまりに過小評価されているのが辛い・・・・。使った予算は当時の国家予算の数分の一。なぜ、欧州の新聞がこぞって日本贔屓になり、あの海戦に勝てたと思う?」てなことを・・・・。これがホントなら、日本近代史のみならず世界史にかかわる一大事ですが、みなもと先生は、オボロな聞き書きにすぎず、むしろホラ話と取ってもらったほうが気楽とあとがきに書かれてます。ま、ことの重大さがわかるからでしょうが。
あと、朝鮮の警察署長をされ、関東大震災前からあの甘粕正彦と懇意だったとか。うむむむ、しかもこの連載、掲載誌「斬鬼」休刊により、頓挫中。何てこった。
しかし、みなもと先生、こんな血筋だったとは・・・・。松吉さんは、どうやら死線をくぐってきた肝の据わった人だったようで、しかも武術の達人ぽい。興味津々。続きが読みたいのであります。ばくち打ちの息子から曲折あって近衛連隊に入ったというあたり、かの石光真清(中公文庫の手記シリーズ参照!)を彷彿とする人物です。いや、おろろいた。

『松吉伝』ほしい人は→ サークルみにゃもと http://fuunji.net/tuuhan/tuuhan2008huyu.html

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