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夏目房之介の「で?」

伊図透『ミツバチのキス』①と、さそうあきら『マエストロ』③

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昨年、とにかく読むものが多く、献本を中心にマンガと雑誌がどんどんどんどんどんどんベッドサイドに積みあがってゆき、今でも数十冊が積ん読の山になっている。それでも大学の講義、ゼミが終わってから徐々に減ってゆき、ようやく遥か向こうに底が見えてきた。

伊図透『ミツバチのキス』①双葉社
 これは最近献本してもらった本で、1月28日刊。それを今読めてるのは、かなり消化が進んで証拠。触ることで人のもっている人生経験がすべて流れ込んできてしまい、その結果としての未来も見えてしまうために宗教教団の巫女にさせられていた女の子の話。力のこもった作品で、面白い。クセのある日本の諜報組織員の造形が魅力的で、主人公の少女のメンドくささをカバーしている。ただ、人の内面が見えてしまうという意味では清水玲子『秘密』を連想してしまい、その点比較してしまうと現時点ではまだ『秘密』の凄さが上回っちゃうかなーと思いながら読んでしまう。これは僕の場合なので、これだけ読んでいればかなりの作品だといえる。
 あと、担当編集からの手紙が面白い。まず、連載時に大幅加筆をしてクオリティが上がっているという情報があり、こんな記述が続く。

〈媒体、ホームページ他での書評、告知などの機会がありましたら、是非お願いいたします。本文(コマ)の使用は常識的な範囲にかぎり「マルC伊図透 双葉社」を明記していただければ結構です。〉

引用はもちろん法的に許容された範囲なので、これは引用以外の利用を指していることになるが(そこを知った上での記述かどうかは不明)、それでもマルC表記はあまり意味がない。でも、こうして図版の利用をすすめたいという思いと工夫は評価できるし、それが進めば必然的に著作権の知識も議論も進むことになるだろうから、いい傾向かもしれない。

さそうあきら『マエストロ』③双葉社 2008年4月刊
 『マエストロ』①~②はむちゃくちゃ面白かった。が、不幸なことに『のだめ』ブームにかき消されてしまった。クラシックの指揮者という、普通表現しにくい領域に挑戦したという意味では、圧倒的にさそうの描写力に軍配があがる。ただ『のだめ』の娯楽性と媒体の力で影に入ってしまった感がある。もっと評価されるべき音楽マンガだよなー。
 といいつつ、じつは積ん読の山の奥深くに鎮座してしまい、ようやく先日掘り返され、再発見されたのだった。感動的な完結篇である。年間ベストに入れ損ねたよ。

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