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夏目房之介の「で?」

現代マンガ学講義21 視線誘導論(6) 歴史

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2008.11.20 現代マンガ学講義21 視線誘導論(6) 歴史

1)  近代以前の視線誘導表現

OHPによるレプリカ鑑賞

『伴大納言絵巻』『信貴山縁起絵巻』 『鳥獣戯画巻』

 手で操り動かすことによる効果 展示状態との落差

『伴大納言絵巻』  冒頭のスペクタクル ハリウッド映画なみ

〈まるでヘリコプターに乗って、「応天門の炎上」という大事件の騒然たる現場の上を超低空で飛んでいるような気分になる。こうした臨場感は、ヘリコプターや飛行機による空撮ドキュメンタリーの出現以前、誰も実感したことはなかったものである。〉高畑勲『十二世紀のアニメーション -国宝絵巻物に見る映画的・アニメ的なるもの-』徳間書店 99年 71p ※近代からの発想と視点

 

『信貴山縁起絵巻』  冒頭の視線誘導模式図 (NHK放映資料

 視線誘導とスクロールの方向=時間流 人物の眼、動きによる誘導 →建造物などの無機的な直線(構図上「強い」直線)などによる誘導(コマ性)※転倒した言及 視線誘導の演出→「コマ」性

鉢の主人公(キャラ)化 描かれた米蔵の「大きさ」=「事件」の大きさ

水平→斜め下→目線と塀によって上向き→米蔵と鉢を巡る目線群の回りこみ=距離と高さ →コマ化の例?

『鳥獣戯画巻』 絵の方向による倒叙法 蛙と兎の相撲場面の異時同図性 

→マンガのめくり同様、メディアの物質的な側面と人間の動的関与が「読む」行為にもたらす効果を重視 

   

メディアと認知

参考 「触覚認識に不可欠なもの」 立花隆『脳を究める』朝日新聞社 96年 75p~

体性感覚」=皮膚感覚(触覚、圧覚、温覚、痛覚)+深部感覚(筋肉、腱、関節など体内組織の感覚)→ 〈それは具体的には、位置の感覚、動きの感覚、力、重さの感覚として伝えられる。〉同上 75p 「位置」や「動き」「力」「重さ」の脳内情報→表象?

サルのニューロン反応を実験

〈エッジ検出ニューロンは[]指先をエッジにあてるだけでは発火しません。サルが能動的に手を動かしてエッジをさぐりあてたときに初めて発火するのです。〉(東邦大学・岩村教授) →アクティブ・タッチの重要性 〈高次の触覚認識はすべてアクティブ・タッチである。〉84~85p

〈サルでも人でも、外界を認識するのに、こちらから外界に働きかけていくということが、どれほど大切かということです。環境に主体的にアクティブに働きかけることによって初めてわれわれは世界を認識することができるのだということです。〉(岩村教授)87p

    環境との動的な交感の中で認識が成り立つ →「アフォーダンス」

『彦根屏風』の屏風というメディアの屈折による「顔」の向き合い

屏風の開きの角度によって男女が見つめあったり、すれ違ったりする 視線の演出

家具=美術 環境の中で動かしながら楽しむ「芸術」形態 近代芸術枠組で見る錯誤

美術館的な鑑賞の限界  夏目房之介『マンガ的思想』6 「表現」No.2 ミレルヴァ書房 08年

〈ただ、アニメ監督である高畑勲は、絵巻物について論じた『十二世紀のアニメーション』(徳間書店 一九九九年)の中で、「絵巻物に対する鑑賞者の視線の傾き」について触れていた。更に、屏風絵と視線の関係を夏目房之介が「マンガ的思想」第六回(『表現』2号所収、二〇〇八)で指摘している。絵巻物や屏風絵は、漫画のように〈アングルの傾きやすさ〉を内包したメディアだという共通項が発見できるだろう。〉泉信行『漫画をめくる冒険別冊 リーフィング・スルー/オンルッカー』ピアノ・ファイア・パブリッシング 08年 24p 註釈7

高畑前掲書 15p 絵巻物における見送りと見迎え 132p、137p 走り高跳び場面の描写

『源氏物語絵巻』  同上模式図 佐野みどり『じっくり見たい『源氏物語絵巻』』小学館

 室内の柱やハリ、畳などの稜線(直線)を利用(コマ性) 吹き抜け屋台の構造

「柏木」より 人物に寄り添う反復ジグザク視線 →密室覗き見的心理ドラマ

「コマ性」を示す稜線相互の角度の異同で「安定感」や「不安感」を演出=マンガ同様

〈また『源氏』のような心理ドラマの場合、あらかじめお話を読者が詞書で読んで絵を見ることが必要な気がする[註2]。言葉の力で絵を読ませるので、むしろ登場人物はいわゆる「釣目鉤鼻」という美男美女類型記号であったほうが感情移入しやすいのかもしれん。〉夏目房之介『マンガの発見』83「絵巻物とマンガ3」 コミックパーク 06年6月 

→吉村「似顔」論想起 着物などへの注目 「顔」の意味の低さ 服装、文様など装飾性=人物

 江戸黄表紙など 例図

建造物の枠線化 → 雲のコマ化 吹き出し状の囲み(夢) 本のめくり効果(分節)と共存する

抽象的な規範性

次回 ッサキバラゴウ「まんがをめぐる問題」など、「コマとは何なのか?」

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