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夏目房之介の「で?」

7月19日東京自由大学講演「日本漫画文化を読み解く」第一部

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NPO法人東京自由大学事務局 御中 2008.7.19 アートシーン21
「目からウロコ! 日本漫画文化を読み解く」  夏目房之介

第一部 マンガ文化の歴史

1) マンガ・アニメ固有文化論

ジャーナリズムによる「世界に冠たるマンガ・アニメ文化」報道
枠組みとしてのマンガ日本起源論 参照→高畑勲説〔註1〕

〈漫画や映画やアニメーションなど、海外や国内の先行作品の大きな影響を受けて出発したのです。しかしそれがなぜこれほど発展し、盛んになったのか、その源泉をたどれば、やはり「絵と言葉で語る」という、かたちを変えながらも決して絶えることのなかった、わたしたちの文化的な好みと欲求の伝統に行きつくことになります。〉高畑勲

現在のマンガ・アニメ表現が海外との異文化衝突現象であることは認めつつ、「背景的文化」としての「絵と言葉」の構造や傾向(好み)の歴史的連続性を強調する。
→容易に「マンガ・アニメは日本固有文化」「絵巻物起源論」へと回収されうる

こうした固有文化論、起源論は戦前から行われていた

2) 近代漫画の発生と『鳥獣戯画』起源論の登場

明治ポンチ絵から「漫画」へ→ 近代 ポンチにかわる名称「漫画」
戯作者・浮世絵師(文・絵混合) → 絵画芸術のサブジャンル メディアの変容
参照→宮本大人論文〔註2〕 

〈画面内の文字は減少し、文体も音読より黙読に適したものとなる。絵の描写においても、対象をあくまで写実的な形態把握に基づいた上で視覚的に誇張してみせることなどが、主流になっていく。要するに、フェノロサ以後の{略}「絵画」の一ジャンルとしての性格を持ち始めるのである。〉宮本大人

近代芸術観(純粋化 文学・絵画)からの排除と純粋化
「絵と文」を混交させた〈不純な領域〉(宮本)としての近代漫画成立
ポンチ絵からの上昇離脱過程で「国宝」『鳥獣戯画』との血脈を「発見」し正系化

3) 西欧の衝撃と近代媒体としての漫画

ポンチ=ワーグマン「ジャパンパンチ」 西欧カリカチュアの移入
近代メディア産業としての新聞 印刷技術 近世木版システムの衰退
新聞媒体としての漫画の成立 風刺・風俗漫画 大人向け
20世紀 1920年頃~ 『正ちゃんの冒険』 『ノンキナトウサン』
 子供向け漫画の成立 米コミック・ストリップの影響
モダニズム 近代大衆社会の娯楽媒体としての漫画 メディア産業の特性

異文化「間」現象としての大衆文化的特質 →戦後の発展

4) 戦後マンガ 低位文化の上昇と若者文化

戦前戦中マンガ文化のタイムカプセルとしての手塚治虫→物語マンガの確立へ
大人漫画と子供マンガ 大人と若者(青年 マンガと「劇画」  男性マンガと少女マンガ
「周縁と中央」的な多様なダイナミズムによる革新と変容の持続

50年代末~60年代 貸本劇画・少年マンガの青年化 少年マガジン
読者の年齢上昇 戦後ベビーブーマー世代の市場→若者市場化 欧米にも同現象

高度成長 社会構造の変化 戦後世界の変貌 学生運動 反戦 対抗文化(既成へのNO
表現文化の若者大衆化 ロック、フォーク ビートルズ マンガ
「若者」の反抗と「低位」文化の共闘関係 「変革」意識の共有

90年代以降 マンガ・アニメなどの世界化現象が進む→ 日本の相対的特異性
○日本で確立した多世代市場型マンガ 幼少~思春期~青年期
○少女マンガの世界的特異性 戦前からの少女雑誌
○思春期を通り抜けた日本マンガ(性と暴力)主題の普遍化

世界各地の現象との詳細な比較検証が必要 異文化論の陥穽を留意しつつ
 参照 夏目房之介「東アジアに拡がるマンガ文化」 青木保他編「アジア新世紀6 メディア 言論と表象の地政学」岩波書店 03年 所収


註1 高畑勲「日本人はアリスの同類だった」 「十二世紀のアニメーション 国宝絵巻物に見る映画的・アニメ的なるもの」徳間書店 スタジオジブリ・カンパニー 99年所収
〈なぜ日本でマンガやアニメが盛んなのか、{略}その根本にひそんでいる最大の要因が意識されることはあまりありませんでした。{略}十二世紀に開花した連続式絵巻はアニメ的マンガ的でした。/躍動する人々の姿態や表情をマンガっぽい線で見事に捉えていますし、速度感をあらわす「流線」や、ひとつの場面に同じ人物の動きを連ねて描く手法など、マンガやアニメを思わせる表現が当時すでに行われていたのです。〉(3p)
〈マンガやアニメは、このような文化伝統を学んで作られたのではありません。漫画や映画やアニメーションなど、海外や国内の先行作品の大きな影響を受けて出発したのです。しかしそれがなぜこれほど発展し、盛んになったのか、その源泉をたどれば、やはり「絵と言葉で語る」という、かたちを変えながらも決して絶えることのなかった、わたしたちの文化的な好みと欲求の伝統に行きつくことになります。〉(5~6p)

註2 宮本大人「「漫画」の起源 不純な領域としての成立」 週刊朝日百科 世界の文学110 テーマ編「マンガと文学」01年刊 所収
〈明治の前半に普及した「ポンチ」の、最も大きな様式的特徴は、画面の余白を埋め尽くす戯文である。{略}その絵と文の特徴に、文が音読に適した文体であること、絵に判じ絵的な技法が多用されること、の二点がある。〉(11-292~293p)
〈その見方こそ、明治末以降に成立してくる、「漫画」を「絵画」の一種として定式化し、それに基づいて、『鳥獣人物戯画』から、大津絵や鳥羽絵を経て、浮世絵師の産物の中から浮世絵や絵手本だけを取り出し、浮世絵師のもう一つの主な仕事たる草双紙を無視する「漫画史」観の産物なのである。〉(11-293p)
〈画面内の文字は減少し、文体も音読より黙読に適したものとなる。絵の描写においても、対象をあくまで写実的な形態把握に基づいた上で視覚的に誇張してみせることなどが、主流になっていく。要するに、フェノロサ以後の{略}「絵画」の一ジャンルとしての性格を持ち始めるのである。{略}この、新しい形式を持った視覚的・滑稽表現を完成することになるのは「絵師」ではなく、西洋近代美術の教育を受けた「画家」たちであった。〉(11-294~295p)

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