オルタナティブ・ブログ > 夏目房之介の「で?」 >

夏目房之介の「で?」

学部講義「現代マンガ学」2~3回まとめ

»

実際は、このレジュメどおりではなく、アドリブであちこち飛んだりしているので、最後のほうに書いてあるマクラウドと宮本論文に至りつくのはもっと後ですが、一応ご参考までに。

2008.4.23 現代マンガ学講義(2

学部講義(24年) 木曜 4

「マンガとは何か?」

1)問いの立て方

    設問の意味 一般的な「マンガとは何か」の問い

我々は「マンガ」という言葉で何をイメージするか?

マンガ雑誌か?  海外では雑誌の形態も違う マンガ誌のない国も多い

具体的な作品か? 日本では新書版?

 フランスのハードカバー タイの5バーツマンガ 香港マンガ []

 新聞マンガのほうが世界的には一般的かも

長い連載の物語マンガ 新書で数十巻なんて日本くらい

 どこで買うか? 書店 露店 スタンド 専門店

 それぞれ流通機構やインフラ整備の程度などで異なる

マンガの周辺に何をイメージするか?

アニメ ゲーム キャラクター商品 広がりのあるイメージ

狭義の「マンガ」は印刷された雑誌、単行本の媒体

ジャクリヌーヌ・ベルント 銀行のATM画面 即席麺の使用法

 オーディオにも文字でしか使用法が書いていない国?

これらイメージには日本のマンガ市場の構成と歴史がある

 戦後、雑誌中心に子供向け大人向け発展

 新書版=単行本文化・二重市場の発展(TV化との関係 60年代

日本型雑誌の特徴

白黒印刷で廉価、多数の連載とページ数、

年代・性別・趣味など多様にセグメントされた市場とテーマ

 

「マンガとは何か」のイメージは歴史によって異なる

2)年代によるマンガ・イメージの差

 戦前世代 『のらくろ』など 子供向け媒体のイメージ

戦後ベビーブーマー マンガ世代 「子ども青年化発展史」の記憶

 50年前後より上の生まれ マンガ=オリジナル アニメ=二次作品

おたく世代

 アニメとマンガは同じ作品の違う表現

 ゲーム 商品 キャラクター文化

  キャラクターを媒介にした諸表現の一つがマンガ?

●世界・地域(空間)、世代・時代(時間)による違いは、それぞれ互換性がありうる 

2008.5.01 現代マンガ学講義(3

1)マンガとは何か? 海外との比較(続き

★マンガの周辺に何をイメージするか?

アニメ ゲーム キャラクター商品 広がりのあるイメージ

狭義の「マンガ」は印刷された雑誌、単行本の媒体

ジャクリヌーヌ・ベルント 銀行のATM画面 即席麺の使用法

 オーディオにも文字でしか使用法が書いていない国?

ドイツからきた「外人」がまず驚くのは、現金自動支払機の画面にまでマンガの女性が登場して挨拶をし、その機械を利用してくれたことに対して礼をいっておじぎをすることである。それだけでなく、多くの銀行ではマンガが刷ってある預金通帳をくれるし、役所でマンガ仕立ての印刷物をつくっていることも稀ではない。あまりドイツ語に明るくない日本人がドイツに行ったら、まずインスンタント食品の調理法が厄介で困ってしまうだろう。というのは、袋入りのインスタントスープやプディングパウダーについて、ドイツ語による言葉での説明があるだけで、すぐわかるように絵で使い方が示されているわけではないからである。

 このようにドイツではいまでも事柄の説明が言葉でなされており、そこから言葉遊びも生まれるのだが、これに対して日本で見かけるのは、親切で、かわいらしい、子どもっぽいまでに素朴な気分にしてくれる絵の世界である。〉ジャクリーヌ・ベルント『マンガの国ニッポン』花伝社 ‘94年 1112

森川嘉一郎『趣都の誕生』 日本の航空会社のマンガ航空機

2)年代によるマンガ・イメージの差

 戦前世代 『のらくろ』など 子供向け媒体のイメージ

漫画とは何かを、ひと言で定義することは容易なことではない。「諷刺」の要素あるいは「遊び」の要素の入った絵とでもいうべきだろうか。〉清水勲(‘39年生)『[日本]漫画の事典』三省堂 ‘85年 3p 

漫画はおかしい絵、こっけいな絵といわれていますが、あることがらが、そんなふうにかきだされるのは、漫画家が常に、〈可笑しさ〉〈滑稽〉をとらえようとしているからだといえます。〉手塚治虫『漫画のかきかた』秋田書店 ‘56年 16

漫画の何がおもしろいかといって、あのしたたかなウソ、ホラ、デタラメ、支離滅裂、荒唐無稽さに出会ったときの楽しさったら、ないのである。〉同上『マンガの描き方』光文社文庫 ‘96年 29p 初出’77

まんがは「たかだかマンガ」であることによって、ぼくらに所有され、ぼくらに操作され、決して権威の名によって裁かれることなく、ぼくらのものでありつづける。そして、まんがを持っている、そのことによって、僕らは〈ぼくら〉たりえているのではないかとさえ思えるのだ。〉村上知彦『イッツ・オンリー・コミックス 黄昏通信 増補版』廣済堂文庫 ‘91年 346p 初出’79

戦後ベビーブーマー マンガ世代 「子ども青年化発展史」の記憶

 ‘50年前後より上の生まれ マンガ=オリジナル アニメ=二次作品

おたく世代

 アニメとマンガは同じ作品の違う表現

 ゲーム 商品 キャラクター文化

  キャラクターを媒介にした諸表現の一つがマンガ?

3)国、地域によるマンガ・イメージの違い

 世界的な「子ども向け」イメージの強固さ →日本アニメ・マンガの「性・暴力」表現問題にもなる

 じっさいは、イメージ通り「子供向け」であるかどうか疑問がある

 歴史的には子供向けのほうがサブジャンルとして後で成立

★米国の場合 小田切博『戦争はいかに「マンガ」を変えるか アメリカンコミックスの変貌』NTT出版 ‘07より

70年代以降のファンダムの成熟とダイレクトマーケットの成長

→コミック専門店に「買い切り」で流通するローコストなシステムの完成

→専門店の閉塞性による衰微 ファン層の年齢上昇 コレクター化

コミックショップとその基盤となるダイレクトマーケットはコミックファンによってつくられたコミックファンのための市場であり、システムである。アメリカにおけるコミックス界は、似たようなファン構成を持つSFやミステリーなどと比較しても出版社を含めた作り手側とファンとの距離が近いジャンルだが、〉(32p)

〈この極度にマニア層に依存した構造の市場から、書店での一般読者の獲得と映画展開などによるライセンスビジネスによって突破口を開いたのが現在のグラフィックノベルブームに沸くアメリカのコミックス界であるわけだが、以上からわかるようにそれ以前からすでにコミックブックは子供向けのものなのではなくなっていた。〉(38p)

〈当のアメリカ人にとってすら「コミックブック=子供向け」という神話の影響が強すぎるために、実際に子供に読まれているマンガが「マンガ」として見えなくなってしまっているのである。〉(3839p)

仏などBDでも似た事情があるのでは?

日本では、海外と比較してもおそらく「マンガ=子供向け」シメージが全般に薄れた国と考えれるが、それでもマンガに詳しくない人と話すと、混乱を感じることが多い

実際の「マンガ」の現象と、マンガについての言説・イメージの流通とは別

どこで「マンガ」を見、押さえるかによってその姿は変わる

4)いくつかの「定義」

◎辞書事典類

広辞苑82年 〈漫画 単純・軽妙な手法で描かれ、無邪気な滑稽を主とする絵。人生批評・風刺を含んだものもある。〉2099

新明解国語辞典97年 〈漫画 滑稽みを主とし、単純な線や色で描いた絵。(社会諷刺・政治諷刺を含むものは、カリカチュア・戯画と呼ばれる)→劇画〉1332

劇画 ①紙芝居②[こっけいみを主とする漫画と違って]リアルな物語性を写実的な絵によって描き出した、漫画の新しい名称。〉416

国民百科事典 ‘78

漫画 省略や誇張による、概してこっけいや諷刺を内容とした絵画の一ジャンルの総称で、東西を通じてその歴史はきわめて古い。しかしこのジャンルが意識的に開拓されて、大衆、庶民の芸術ないし娯楽として自立したのは中世以降である。そしてこのジャンルはやがて活版印刷の発明とジャーナリズムの発達、さらに近代に入ると写真、次いで映画の出現によって大きく変貌しながら著しく発展した。しかしなんといっても、漫画が画期的に新しい顔を見せ、非常な活況を呈するようになったのは第2次大戦後のことで、これはテレビの普及と、週刊誌をはじめとするマスコミ、ジャーナリズムの発展、つまり総じて視聴覚文化の隆盛という事態が決定的に影響している。[]

 今日ではアメリカと日本を筆頭として、吹き出し(バルーン)や、〈ギャー〉とか〈ザー〉といったオノマトペ(擬声語)を多用し、コマ割りを自由に使ってストーリーを描き、語る→劇画(フランス語ではバンドデシネ)が、連載・長編漫画(アメリカ英語の〈コミックストリップ〉)のバリエーションとして盛んになり、漫画=劇画といっていいほどになっている。これは、漫画の世界そのものが、絵と活字を媒体としながらも、本来の自由さを生かして想像の舞台やスクリーンになろうとしている、つまり絵画の一ジャンルというより、総合的でダイナミックなスペクタクルになりつつある証拠にほかならない。〉 渡辺淳

 〈劇画 ストーリーを軸として連続した絵を展開する絵物語。フランス語でバンドデシネ。第2次大戦後アメリカや日本で、テレビジョン動画や、週刊誌の発達とともにブームとなった。〉 木原伸朗

分野とメディア

絵画の一ジャンル

大衆、庶民の芸術ないし娯楽

 

近代

活版印刷の発明

ジャーナリズムの発達

第二次大戦後

テレビの普及 マスコミ 視聴覚文化の隆盛

形態

コマ割り 劇画 連載・長編漫画 絵物語

清水勲『漫画の歴史』岩波新書 ‘91

〈日本人なら誰でも知っている「鳥獣人物戯画」[][]その描写の見事さと諷刺の卓抜さで日本漫画の原点ともいうべき傑作である。〉i p

→ 〈民衆のもの〉 近代になってジャーナリズムに発表されて以後

→ 〈複製美術としての漫画は、「一枚絵漫画」あるいは「カートゥーン」といわれる分野を中心に発展してきた。本書はその歴史から派生した「コマ漫画」「ストーリー漫画」にもふれるが、一枚絵漫画の二大ジャンルといわれてきた政治漫画・風俗漫画の変遷を視点の中心においている。〉

〈漫画の精神は本来、「遊び」と「諷刺」の要素から成っている。〉iii P

スコット・マクラウド『マンガ学 UNDERSTANDING COMICS  THE INVISIBLE ART』 岡田斗司夫監訳 美術出版社 ‘98

1 1213

2 1517

連続的芸術 → 連続的視角芸術 → (空間併置性)「並置された連続的視角芸術」 → → 〈意図的に連続性をもって並置された絵画的イメージやその他の図像。情報伝達や見る者の感性的な反応を刺激することを目的として描かれる。〉(17p)

石子順造の定義 『戦後マンガ史ノート』紀伊国屋書店 ‘80 917

 「起源」 宮本大人による「漫画」の成立史

参照 宮本大人「「漫画」概念の重層化過程 近世から近代における」 「美術史」154冊 03

Comment(0)