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夏目房之介の「で?」

Nスペ「ミラクルボディー①アサファ・パウエル」

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昨夜、何気なくNHKに回したらNHKスペシャルで「ミラクルボディー 第1回 アサファ・パウエル 史上最速の男」をやっていて、面白かった。
なぜ、彼が速いのか、を走りのメカニズムを映像的に解説しながら見せている。
まず、スタートの能力の高さ。これは、左右に振れながらスタートするライバルの米黒人選手と並べ、走りを後ろからの超高速度撮影で見せる。パウェルはまっすぐに立ち上がって、まったく左右のブレがない。左右の振れで次第に軸を中心に立ててゆくライバルに対し、はるかに早く最高速度に達するパウエルは、スタート時のバネが凄いらしい。
そのバネを、番組は、彼が両足の裏を全部つけた走り方による反発力の大きさで説明する。ふつうはつま先だけで走るのだが、足の裏全体を使うのだ。が、そうすると当然遅くなるはずだが、パウエルは物凄いバネで速度を可能にする。

その秘密は、大腰筋の異常な太さにあるという。日本の朝原が同時にモーションピクチャーなどで実験するのだが、彼は「僕らが同じ走り方をするとパワーがなくて、とてもできない」といっていた。MRIの断面図を見ると、パウエルの大腰筋の太さが面積で朝原の3倍ほどある。朝原の唖然とした顔が印象的だった。実験した日本の研究者は「こんなの見たことない」とパウエルに語っていた。内蔵部分よりはるかに筋肉の断面が太いのだ。
また、腱の強度が異常に高く、硬く鍛えられた腱は、朝原の倍の力でないと引っ張れないほどらしい。これも計測数値を出していた。腱については、八卦掌の訓練で鍛えているところなので、興味深かった。
また背の高い選手が得意な歩幅で稼ぐ走り方と、低い選手のピッチを上げる走り方の、両方をパウエルは可能にした。典型的なピッチ派のライバルよりも、最高速度の出る段階でのピッチは速いらしい。これも映像で二人を並べ、視覚的に具体的な説得力をもたせている。

にもかかわらず、パウエルは大舞台で勝てない。それは「世界最速の男」「勝ちを期待されるプレッシャーによる心の問題」なのだが、それをいっただけでは面白くない。またか、てなものだ。が、番組はそれを筋肉の働きと神経、脳の関係で説明する。
パウエルの走りは、当然のように足の前の筋肉→後の筋肉の規則的な収縮で起こる。この刺激は脳ではなく、脊椎からくる。そのほうが早いのだろう。が、なまじ速いので、世界大会などの場所でないと、隣に選手が見えることがない。大舞台で、隣に選手が見えると、プレッシャーもあってパウエルの意識が乱れる。それが脳からの刺激となって、脊椎の情報と混線し、筋肉の前後収縮の規則性が乱れ、前後同時に収縮する共縮現象を起こす。すると、体軸が斜めになり、これまで開いていた手が握られ、明らかに上半身に力みが生じて、バランスが崩れている。この解説には感心した。

パウエルの走りを科学機器を使って解析するだけでなく、映像的にそれを再現し、比較し、じつによくできていた。さらに、そこで終わらずに、最速の男の孤独な心理に踏み込んで、その現象を可視化したのがよかった。
やっぱり、こういう番組ではNHKは凄い。次回16日は水泳でマイケル・フェルプスだそうである。今後、格闘技もやってくれないだろうか。期待大。

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