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夏目房之介の「で?」

学習院大学講義の素案

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今年から学習院大学のセンセになる。僕の担当は基本的に大学院の「身体表象文化学コース」でのゼミだが、学部講義も1コマあり。実際始まってしまえば何とかなるだろうとは思いつつも、どうも不安で、シラバス案を考えつつ講義の主題を思いつくままに書いてみた。もちろん、これをそのまま実現できるかどうかはわからない。学生たちの反応なども見ながら、フィードバックし、試行錯誤してやっていくと思うが、とりあえずの基準にはなるかな、と。実際、これを書き上げて、だいぶ気が楽になった。ただ、学部講義としてやや突っ込みすぎかと思う部分もあり、それはゼミで実現していけたらと思っている。もし、僕と一緒にやってみたいと思っている人がいたら、参考にしていただきたい。何にせよ、大学人としてはほぼまったく素人の初年兵なので、現場の人などから感想をいただけると幸いです。

現代マンガ学講義 表現・媒体・歴史

担当者 夏目房之介

講義の目的

現代日本のマンガを巡る問題を、具体的な作品に沿って提起しつつ、全体のイメージと各問題の位置づけをできるかぎり行っていきたい。担当者(夏目)にとって初めての通年講義なので、試行錯誤の多い講義となるが、予定としては「マンガとは何か」の問いから始め 表現について 媒体について 歴史の素描 問題の再整理 まとめ、といった順序を考えている。また、その中で、A)作品分析 B)成立条件の整理 C)問題提起と問題の枠組、といった展開をくり返すことになるだろう。具体的な事象と抽象的な議論をつねに有機的に往還できる講義を目指す。

講義方法

適宜、レジュメなどを作成し配布、DVDなど映像資料なども活用し、可能なかぎり学生の身近なマンガ体験とマンガ全体の問題をつなぐ方法を模索したい。

講義内容(仮案

「マンガとは何か?」

設問の意味 一般的な「マンガとは何か」の問い

定義 いくつかの「定義」 ウィル・アイズナー/スコット・マクラウド他

種類 Comic  BD  漫画/マンガ/MANGA など

言葉 「起源」 清水勲、宮本大人らによる「漫画」の成立史

参照 宮本大人「「漫画」概念の重層化過程 近世から近代における」 「美術史」154冊 03

「マンガとは何か?」2

自分自身の体験・習慣としての「マンガとは何か?」

吉村和真の設問と解説 マンガ体験と習得過程の対象化及び方法論

 参照 吉村和真「マンガ その無自覚なまでの習得過程と影響力」 共著『知のリテラシー 文化』ナカニシヤ出版 07年所収

 吉村他『差別に向き合うマンガたち』臨川書房 07

「マンガとは何か?」3

リテラシーとしてのマンガ

 参照 中澤潤「マンガのコマのリテラシーの発達」 日本マンガ学会「マンガ研究」Vol.7 05年所収

『ドラえもん』と学年誌 リテラシーの歴史的成立

リテラシーを成立させる条件 作品・媒体・読者

 媒体・作品の成立と流通条件

表現としてのマンガ

 マンガ表現論の成立まで素描 「マンガ論」から「ぼくらのマンガ」

夏目 マンガ表現論 四方田犬彦『漫画原論』

「絵・コマ・言葉」三要素仮説  伊藤剛『テヅカ イズ デッド』「キャラ」

伊藤の作者・作品・媒体・読者・社会を俯瞰する模式図    

現在のマンガ理解の水準

マンガ作品分析1

『NARUTO』第一部より 

作者の自伝的な文章解読

 作者の年代とマンガ体験及び遡行(夏目式マンガ年表

    作品に見られるマンガ史の反映

 連想される影響関係からマンガ史の流れを読む

 白土三平、大友克洋、鳥山明など 画像、コマ構成の分析 キャラクター及び人物関係の分析 「ジャンプ」的な特徴の分析

各先行作品・作家の紹介と解説

媒体論  「ジャンプ」における作品形成

メッセージ  「友情・努力・勝利」幻想と共有  「読者・作者共同体」の仮説

担当編集者とのタッグ制と競争原理 歴史的経緯  マンガ編集者論

「ジャンプ」とはどんな媒体か? 出版バブル期と崩壊の象徴

 マンガ産業市場論

    マンガ出版とは?

 手工業的工房制度と産業化された市場の折衷?  マンガと出版産業論 

参照  西村繁男『まんが編集術』白夜書房 他

     マンガ編集者の自伝類

     中野晴行『マンガ産業論』筑摩書房

     他に出版産業市場論系資料

媒体論2 マンガ編集論1

    盟友関係

 西村繁男(ジャンプ)×本宮ひろ志

 鳥嶋和彦(ジャンプ)×鳥山明

 栗原良幸(モーニング)×かわぐちかいじ

長崎尚志(小学館~フリー)×浦沢直樹

    マンガに見るマンガ編集者

 『編集王』他

映像資料  NHK『BSマンガ夜話 編集王』

NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀 愛と覚悟のヒットメイカー 長崎尚志』

参照 西村繁男『さらば、わが青春の『少年ジャンプ』』、『漫画王国の崩壊』

   本宮ひろ志『天然まんが家』

   かわぐちかいじ『沈黙の団塊へ』

 

マンガ作品分析2

    『ドラゴンボール』部分 前・中・後期より抜粋 必要ならアニメ鑑賞

ジャンプ・システムの確立 400万部時代の構造

    媒体としてのジャンプ マンガ作品の構造と特徴

    マンガ、アニメ、ゲームの並行世界的市場の確立

媒体論2 ジャンプと読者共同体

    「熱血」と独特な制作集団の確立 歴史的経緯の素描

 60年代「革命」共有意識と70年代「運動」意識と「劇画」

 同時期に少年・少女期を過ごした世代

おたく市場との関係 コミケの拡大とジャンプ

    ジャンプにおける女性読者  女性の「読み」 

「やおい」と「萌え」 男女おたくの傾向

少女マンガ・女性マンガの表現的構造と「読み」

マンガの「読み」と表現1 ジャンプの表現

    少年マンガと青年マンガ 『NARUTO』と大友

    ジャンプの諸表現

バトル系 ギャグ系 マニア系

 ジャンプ非ラブコメ体質とラブコメ系の差

参照 「STUDIO VOICE」08・2特集「[少年ジャンプ]というジャンル!」 

マンガの「読み」と表現2 様々な媒体

    ジャンルと「読み」と表現

4コマ、青年誌、エロ、低年齢向けなど アニメ絵と「萌え」

マンガの「読み」と表現3 様々な媒体

    少女・女性マンガ 

    様々な理解 大塚英志、伊藤剛他

参照 夏目『マンガはなぜ面白いのか』

    マンガを「表現」すること

映像資料 NHK『手塚治虫スペシャル 手塚治虫・創作の秘密』45

マンガの「読み」と表現4 視線誘導論

    様々なジャンル傾向と「読み」視線のパターン 

参照 イズミノウユキ「視線構造」

マンガの「読み」と表現5 画像とコマの構造

    コマに関する理解

夏目、四方田、竹内、伊藤他

    諸表現の比較試論

 浦沢直樹、佐藤秀峰、かわぐちかいじ他青年マンガの完成形

 夏目・少女マンガのレイアー構造

 伊藤・「萌え」系論

 イズミノ・『ジョジョ』論 

    コマとは何か?

映像資料 個人製作アニメ『夏と空と僕らの未来』11

読者論

    表現構造と「読み」の構造

    「読み」の多義性

    「マンガ読者」の誕生 歴史的な過程の仮説

マンガの歴史1  様々な「マンガ史」

    マンガ表現史の仮説 夏目『手塚治虫の冒険』~伊藤剛『テヅカ イズ』

    「読者作者共同体」の歴史 ガロ、COM~コミケ

    出版編集史としてのマンガ史 編集者の自伝類、マガジンなど雑誌資料本

マンガの歴史2 戦後マンガ史から戦中戦前マンガへ

    手塚治虫と戦中戦前マンガ 霜月たかなか・宮本他『誕生!手塚治虫』朝日ソノラマ

    清水勲の仕事 各種『漫画の歴史』

参照 秋山正美編著『戦争漫画の世界』夏目書房

   梶井純『執れ、膺懲の銃とペン』ワイズ出版

   石子順造『戦後マンガ史ノート』紀伊国屋書店

   竹内オサム『子どもマンガの巨人たち -楽天から手塚までー』三一書房

マンガの歴史3 近代マンガ史へ

    田河水泡『のらくろ』

参照 宮本大人「ある犬の半生 -『のらくろ』と〈戦争〉-」 日本マンガ学会「マンガ研究」2 02年所収

    岡本一平

参照 清水勲・湯本豪一『漫画と小説のはざまで 現代漫画の父・岡本一平』文芸春秋

    『正ちゃんの冒険』、北澤楽天、赤本他

参照  竹内オサム編『少年小説体系 別巻1 少年漫画集』(三一書房) 他

マンガの歴史4 近代マンガの誕生

    ビゴー、ワーグマン 団々珍聞 幕末明治の「西洋の衝撃」

参照 鳥越信編『はじめて学ぶ日本の絵本史 絵入本から画帖・絵ばなしまで』ミネルヴァ書房

    明治維新と近代化の諸問題 ~ 「歴史」「文化」という概念と枠組

    宮本仮説 「不純な領域としての漫画の成立」論

マンガという領域と概念

    大衆文化・大衆社会の成立と枠組の課題

    近代と「文化」イデオロギー 

    より広い視点からの俯瞰

マンガと社会・歴史・文化

    マンガと社会の「表現として」の関係

    マンガと、文化環境を介した社会との関係

    マンガと社会の関係の歴史

21マンガと社会 著作権の問題

参照 米沢嘉博編『マンガと著作権 パロディと引用と同人誌と』青林工藝舎 他

22マンガと社会2 「事件」的トピック

参照 竹内オサム『戦後マンガ50年史』筑摩書房

   永山薫・昼間たかし編著『マンガ論争勃発 20072008』マイクロマガジン

23マンガと世界

    マンガの世界化現象と地域化現象 ポップス、ロックとマンガ

    各国、地域の現象 比較 欧米、東アジア

参照 夏目『マンガ 世界 戦略』(小学館) 

    関口シュン・秋田孝宏編著 「アジアMANGAサミット」 (子どもの未来社)

    小田切博『戦争はいかに「マンガ」を変えるか アメリカンコミックスの変貌』(NTT出版)

24世界から見るマンガ

    世界・外部の視線とマンガという文化 理解の枠組の問題

○文化の違いと異文化接触、衝突現象 大衆文化と創造性の刺激

 大衆文化の越境性 外部との往還による創造及び批評的視線の転換

    大衆文化とは? 

参照 マイク・モラスキー『戦後日本のジャズ文化 映画・文学・アングラ』青土社

25まとめ

映像資料

ビデオ NHK『手塚治虫スペシャル 手塚治虫・創作の秘密』45

    NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀 愛と覚悟のヒットメイカー 長崎尚志』

    NHK『THE少女マンガ!作者が語る名作の秘密 ベルサイユのばら/池田理代子』『同 ポーの一族/萩尾望都』『同 デザイナー/一條ゆかり』各60分? 2004

    『アジア発見 人気マンガは純国産 ~韓国・ソウル~』

まんがビデオ『巨人の星』『仙術超攻殻オリオン』

    『藤子不二雄Aのまんが入門 Part2 実践編』30

DVD 個人製作アニメ『夏と空と僕らの未来』11

    NHK『BSマンガ夜話 Vol.2 攻殻機動隊』

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