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本物の香り、真実の響き、それはどんな人の心も捉えて離さない

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クラシックのピアノ演奏といえば、何かよく分からない堅苦しいものというようなイメージがあるかもしれませんね。
 
最近、一般の聴衆が夢中になるクラシックピアニストが出るようになってきました。
 
例えば、フジコ・ヘミングさん。
 
フジコさんは、私たちクラシックピアニストからすると「え?こんなのありなの~?!」みたいな演奏をします。
 
フジコさんの演奏はとても個性的。独特の間合いや節回しで、心の内面を映し出すような音楽です。
基本的なメソッドなんて関係ない。自分の思うがままに自由に堂々と弾いている。
ご本人も「間違えたっていいじゃない。人間だもの」とおっしゃっている通り、決して技術を前面に出した音楽ではない。
 
しかし、その音楽は、クラシックを知らないような方々の心をとらえて離さない。
 
それは、彼女の数奇な運命に彩られた人生が面白いから、とか、遅咲きのピアニストだから応援したいとか、そういうものではないのだと思います。
 
人生の深みを得てワインが熟成するようにあるとき開花した。
その香りは、どんな人にもわかる本物の香りであったのですね。
 
もう一人は、左手のピアニスト、舘野泉さん。
 
2012年5月22日の日本経済新聞に舘野さんの記事が掲載されていましたので引用しながらご紹介します。
 
2002年に、演奏していて脳出血のため舞台上で倒れました。
そして右手が使えなくなってしまったのです。
 
絶望の淵から立ち上がり、次々と左手の作品を作曲家に委嘱(作品を作ってもらう)。
左手だけで演奏するということは体に大変な負荷がかかります。しかし舘野さんは「左手で弾くのと、両手で弾くのと、分けて考えてない。ただ『音楽』をやっている」
 
作曲家の吉松保雄さんはおっしゃいます。
「ピアニストに失礼だが、舘野さんは75歳にしてピアノが上手になった。熟達ぶりは想像を超えている。」
「左手だけで弾くのは通常より運動的な神経が必要。舘野さんはしなやかで若々しい筋肉を得て実に鮮やかに弾きこなすようになった」
 
なんということか、左手を使うようになって、静かに内面を見つめられ、さらに奥の深い音楽となっています。
 
なぜ聴衆が彼の音楽を愛するのか。
 
それは「左手だけで弾けてすごい。私たちも勇気をいただける。」というだけではないと私は思います。
 
やはり、誰の心にも訴えてくる、真実の響き。それが人間の心を強く捉えるのだと私は感じています。

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