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ピアニストは手を広げるために指を切るのか

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「ピアニストって、手を広げるために指の間(水かきのような部分)を切る手術をするのですか?」

 
この質問、本当によく受けます。
そして、聞きたくなってしまう気持ちも心底よく分かります。

 
ピアノ音楽は、過去のピアニストが自分のヴィルトゥオジィ(名人芸)を誇示するために作られたものが多く、そういった作品は大抵、幅の広い音程をつかむテクニックが必要です。そして、そのような曲に限って大変に魅力的なものが揃っていることも確か。

 
ピアニストでもある作曲家が自分の手にあわせて書いているのだから、それを手が小さい人が弾こうとすれば困難なことになってしまいます。
弾きたい曲も弾けないなんて・・・。スタート地点でハンディがあるというのは悔しいものです。オクターブが届かないからピアノを諦めたという方も少なからず知っています。

 
そいう背景もあってか、小柄ながら手の大きいピアニストに対して「実はね、あの人は切ったんだよ。」という話が流れてしまうのも仕方のないことといえます。

 
もし、手を広げようとして指の間を切る手術をするとどうなるのでしょうか?

 
実際、指の間(水かきのような部分)を切ったとしても指は広がるようになりません。
 
指が広がらないのは、中手骨(ちゅうしゅこつ:手の平のところにある指とつながっている5本の骨)を連結している中手横靭帯があるからです。だから、この靭帯を切り離せば手は容易に広がります。
しかし、普通には弾けなくなるはずです。
靭帯が切れるというこは、ピアノを弾くときに必要な細やかな動きや、手の支えなどの機能をほとんど失うことになるのです。

 
だから、手を広げるために手術をするピアニストはいないと私は思います。

 
手の大きさは、ほとんどは身長に比例します。
だから大柄な人の方が手が大きいということになります。
もともと持っている手の大きさは、残念ながら、身長を伸ばせないのとほぼ同じような理由で変わりません。

 
しかし、手が小さくとも、練習と技術によって克服することは可能です。

 
私の師匠は身長155センチほどと小柄ながら、以前は「リストのソナタロ短調」という手の大きい人しか弾けない難曲を見事に演奏していました。先生の脱力の技と、自然で卓越した指運びを教えていただけたのは、私の一生の宝です。

 
スペイン出身のピアニスト、アリシア・デ・ラローチャ(1923~2009)もまた、小さな手で有名ですが、輝くような音色でグラナドスやアルベニス、またモーツァルトやベートーヴェン、ショパンなどでも、心に響く演奏をしてくれました。またラフマニノフという巨大な手が必要な作曲家の作品に対しても素晴らしいアプローチを見せてくれていました。

もう一つの方法は、鍵盤の幅が細いピアノを使用することです。
作曲家の中田喜直さんは、もともとピアニストだったのですが、手が小さかったのでご自分のために鍵盤の幅が細いピアノを特注して作曲していました。中田さんのピアノパートは、広い音程が多いのですが、細い幅の鍵盤なら小さな手でも弾きこなすことは可能です。

 
だから、万が一「手が小さいので大きく広げるために手術をしたい」という方がいたらば絶対に止めます。そんなお金と時間があるならば、練習で工夫をするか、幅の細い鍵盤のピアノを特注する方が良いと勧めます。

 
ピアノは素晴らしいものです。一生の良きパートナーとなります。諦めなければ方法はあります。今後ブログでも手が大きくなくても使えるテクニックなどを書いていければと思っています。

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