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グレン・グールドの神業 「トルコ行進曲」

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極端に低い椅子。ほとんど鼻先と鍵盤がくっつきそうなスタイルでピアノを弾いている。ピアノの音と同時に聴こえる唸り声のようなハミング。
 
グレン・グールドの映像を初めて見たときの衝撃は忘れられません。
 
私は子供の頃、「バッハは退屈でつまらない」と思っていました。しかし、ピアノを学ぶものにとって、バッハは必ず勉強しなければならない必須科目のような作品だったのです。
ピアノの練習が苦痛だった一つの理由として、バッハを毎日弾かなければならないことにありました。
 
しかし学生時代、グレン・グールドの弾く、あまりにも個性的で、生命の躍動感にあふれるバッハの「ゴールドベルク変奏曲」を聴いて、音楽観が変わってしまうほどのインパクトがありました。少し体調のよくないときに、これを聴くだけで回復してしまうかのようです。
 
やはりグールドと言えばバッハですが、今日はちょっと目先の違うお勧めのグールドをご紹介します
 
モーツァルトの「トルコ行進曲」。
 
あまりにも有名なこの曲をグールドの演奏で聴くと、グールドがいかに個性的であるか、音楽が天才的なアイデアに満ちているかが分かると思います。
 
ポツポツと切って弾く独特の演奏スタイルで、しかも人を食ったような、なんともゆっくりのテンポ。
機械仕掛けのトルコの兵隊が「ギリッギリッ」と音を立てながらぎこちなく手をふって歩いてくるようです。
子供の頃見た夢を思い出してしまうかのような、シュールで幻想的な風景。
 

グールドは左利きでした。だから普通のピアニストが伴奏として弾く左手も、グールドにとってはメロディと同じくらいの重みがおかれています。1:05からの左手に出てくるアルペジオ(和音をバラバラッとバラしたような弾き方)の生かし方も最高です。1:27からの短調(暗い調子)の転調の孤独感。右手の音が一見機械的に弾かれているように聴こえますが、その音色の一粒一粒が憂いに満ちた色合いをたたえています。3:00から、グールドの気持ちが高ぶって、唸り声が大きくなっています。グールドのハミングは驚くべきことに、良く聴くとメロディではないところを歌っていることがあるのですね。普通の人ならば、音楽の中心となるメロディをハミングするものだと思うのですが、グールドは全く違うところ意識がいっていることがよく分かります。3:35からは、本来フィナーレに向かって明るく演奏したいはずなのに、左手の伴奏がなぜか天国の階段をかけ上るようで、ひたすら悲しくなってしまいます。

グールドの演奏は、知的な分析や、天才的なインスピレーション、ナイーブな感受性を持って、モーツァルトが単なる明るい音楽ではなく、深い内容を持っていることを教えてくれます。
 
しかし、この弾き方を真似しようとしても殆どのピアニストは難しいと思います。これはもう神レベルです。
 
それではモーツァルトのピアノソナタ第11番イ長調より第3楽章を、グレン・グールドの演奏で聴いていただきましょう。

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