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ワーグナー、その黄金の音色

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ワーグナーという作曲家には毒があると思います。
 
ヒットラーが、ドイツ国民の士気を高め、鼓舞するために利用したのが、このワーグナーの作品です。
それほど強烈で危険な音楽でもあります。
 
子供の頃は、ワーグナーは長くて退屈なばかりの音楽だと思っていましたが、私はあるきっかけで、いきなりワーグナー中毒となってしまった時期がありました。本来、オーケストラが演奏する曲を、ワーグナーの舅で、作曲家で思想家のリストがピアノ曲に編曲した「トリスタンとイゾルデ」より”イゾルデの愛の死”があるのを発見し、演奏会で弾いていたほど。相当その毒にやれらていたのかもしれません。
 
イゾルデは愛する騎士トリスタンの死を知り、トリスタンを腕に抱きながら自分も死ぬことを歌う内容なのですが、恍惚とした表情で豊穣なハーモニーとともにあふれんばかりに表現されています。
それは黄金の光に包まれた世界なのです。
私はなぜか画家グスタフ・クリムトの黄金色を思い出してしまいます。
 
当時のヨーロッパは今よりもっと死が身近にあった世界。
ワーグナーは単にロマンティックに音楽を書いていたわけではなく、天才の異常に研ぎ澄まされた感性で死を見つめていたのではないでしょうか。
 
ワーグナーの毒は死と引き換えにした毒。
 
それが、人々の心を捉えて離さない。
 
死というものがあり、限りあるものだからこそ光り輝くのだということを、その黄金の音色は私に感じさせてくれるのです。

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