失敗を恐れず狂気の領域に一歩踏み込め
指揮者のK先生のレッスンは本当に素晴らしかった。
通常レッスンでは2台のピアノがオーケストラのスコアを弾き、それを相手に指揮棒を振ります。私はその伴奏に行っていました。オーラが漂っていて、先生の前だったら本来弾けるはずもない曲までも弾けそうな気がしてきます。
生徒全員が先生のファンで、他の人のレッスンまでスコアを用意して熱心に聴講しているほどでした。
先生がオーケストラの定期演奏会を振るとき聴きにいったことがあります。(定期演奏会とはオーケストラが最も力をれる演奏会です)
プログラムの一番最初。
モーツァルトの「フィガロの結婚」序曲でした。
なんと先生は、危険なほどの速さで振りはじめました。
あまりの速さに、プロのオーケストラがついていけず解体寸前。アンサンブルも乱れています。いつ止まってしまうのかと思いきや、しかし首の皮一枚なんとかつながりながら演奏し終えました。
もうスリル満点でドキドキしっぱなしでした。
狂気のように疾走するモーツァルト。
冒険かもれませんが、リスクをとって何が何でも自分の表現したいことを行った。普段の穏やかな佇まいからは想像もできないような演奏。師匠のチャレンジに弟子たちは奮い立っていました。
「プロならミスなくやらなくてはいけないのでは?」とも思えます。
しかし、完璧だったけど、「何かが足りない」という演奏はよくあります。見方を変えれば「さすがプロ」とも言えるでしょう。
しかし私は、わざわざ生の演奏会に行くからには、ドキドキワクワクしたい。失敗を恐れて何もしないのであれば、家でCDを聴いていたほうがマシとさえ思ってしまうのです。
単に力のない者がメチャクチャな冒険をしているわけではないことくらい、聴けば分かります。私はそのチャレンジに心から拍手を送り、いつか必ず成功すると思いました。
実際、このモーツァルトでオーケストラに喝が入ったようで、その後のプログラムは素晴らしい出来で、感動しながら家に帰ったのを覚えています。
さて、今日はリッカルド・ムーティの命がけのチャレンジをご紹介しましょう。
曲は、ロッシーニ作曲「ウィリアム・テル」序曲。
普通の速さで演奏してもアンサンブルが乱れてしまうこともある曲です。ムーティの超人的な意志の力を感じさせます。一糸乱れずついていったオーケストラもとにかくすごい。聴いてみてください。