能力を発揮することば 「決して無理をしないで」
音楽において、人に何かにチャレンジしてもらうとき、ちょっと頑張ってほしいとき、難しい場面でよく使う言葉があります。
「決して無理をしないでください」
この言葉、指揮者の方々がオーケストラや合唱のリハーサルでよく使うので、以前から気になっていました。
子どものときは親から「~してはいけません」とよく言われませんでしたか?
しかし大抵は逆のことを行ってしまいます。
「遊びに行っていけません」→「遊びに行く」
「ご飯を残してはいけません」→「残す」
「勉強しなさい」→「しない」
いつか、苦しくて「ピアノをやめたい」と言ったときに「ふーん、やめたら?」とすんなり言われて続ける気になったことがあります。
人は、否定されると肯定したくなるという性質があるようです。
「決して無理をしないでください」はそれを上手く利用している言い方なのです。
特に、合唱のような歌の場合は、人間が楽器なので大変デリケート。
難しいところで「ここのところ頑張って!」と言ってしまうと、身体が緊張して硬くなってしまい、出るものも出なくなります。
歌はとにかく「リラックス」なのですよね。
ただ、「はい、リラックスしてください!」では、相手は「リラックス」を意識しすぎてしまうか、「固くなっているのを指摘された」と思い、上手にリラックスできないものです。
さらに、合唱の指導でよくある「はい~、軟口蓋を上げて~、腹から声をだして~、頭の後ろ、こうっ、こうっ・・・(頭の後ろでひゅっと手をのばす動き)」では、初心者の場合はかえって分からなくなってしまいます。
「ここはちょっと難しいかも」と思ったら、「難しいから頑張って」と言わずに「決して無理しないでください」と言います。
「あなたたちは、もうすでに出来ています。あとは無理せず出せば大丈夫ですよ」というニュアンスを伝えるように。
そうすると、「無理しない」→「出来ることが分かって安心し、ほどほどに頑張る、でも”無理するな”と言われているので力まない」という結果に落ち着きます。
特に、高い音や低い音を美しく出さなければならないときに有効です。
本来、皆さん音感が良い人が多く、潜在能力があるので、あとは指揮者がどのように言うか、言い方一つで出てくる音楽は良くも悪くも全く変わってきます。
指揮者は音楽で最高の結果をだすために、言葉のアプローチを常に考えているのです。