ベルリオーズ そのパッションと狂気
ベルリオーズ(1803年~1869年)は、狂気のようなパッションの持ち主でした。
ベルリオーズがローマ留学中に、婚約中の恋人マリー・モークがプレイエルという有名ピアノ製造業の御曹司と婚約してしまったことを知ると、拳銃を買い込み、女装して馬車に乗り込みます。「女中のフリをして娘も母親も殺してやる。そしてその後自分も死ぬのだ」。しかしなぜか、ニースあたりで気が変わり引き返すのですが、このような突拍子も無い発想こそ、ベルリオーズそのものなのです。
25歳のとき、人気女優スミスソンの舞台を見て一目ぼれしたベルリオーズは、繰り返し手紙による求愛を行います。今でいうストーカーでしょうか。しかし、貧乏な作曲家など相手にしてもらえるわけがありません。ベルリオーズのあまりに激しく病的な行動にスミスソンは恐怖を感じてしまいました。
結果、フラれてしまったベルリオーズは、パリの街を気が狂ったように徘徊します。彼の理解者でもある親友のリストとショパンは、心配して一晩中探し回りました。
失恋の耐え難いショックと、スミスソンへの愛と呪いのすべてを込めた作品が「幻想交響曲 作品14」。
「恋の悩みによる絶望的な発作から自殺を図ってアヘンを飲むが、薬の量が少なすぎ奇怪な夢を見る」と説明書きがされています。
・第一楽章「夢・情熱」 恋人に対する胸を締め付けるような熱狂を表現します。
・第二楽章「舞踏会」 舞踏会で愛する人と再会。
・第三楽章「野の風景」 田園風景の中で遠くの羊飼いと近くの羊飼いが角笛を吹き合っています。そこで恋人の幻影を見るのですが、角笛の応答がなく、ただ雷鳴と静寂だけが残ります。
・第4楽章「断頭台への行進曲」 ついに愛する女性を殺し、死刑を宣告され断頭台へ引いていかれます。
・第五楽章「魔女の夜宴の夢」 死刑のあと地獄に落ちて彼の周りを悪魔たちが踊る。そこに彼女が現れるのですが、グロテスクで醜悪な姿に変わっています。悪魔たちは彼女の到着に歓喜して大饗宴となるのです。
まったく荒唐無稽なストーリーに思えますが、「恋人を表す旋律」が全体にちりばめられ統一感がある傑作。楽器編成も大胆で、それまでの常識を覆すような意欲的な作品なのです。
私は、この曲を初めてミュンシュの録音で聴いたとき、衝撃を受けてしばらく立ち上がれないほどでした。
他人とは違うことを発想する人というのは、現実社会ではかなり異質なものを感じさせるのかもしれません。もしこんな人がそばにいたら、変わっていてはた迷惑な人物であるのではないでしょうか。しかし、理解し支える人たちがいたおかげで、素晴らしい芸術を私たちは今も聴くことが出来るのです。
今日は、レナード・バーンスタインの指揮で第一楽章を聴いていただきます。
第一楽章(2)1:03から「恋人の旋律」が演奏されています。その旋律が少しずつ姿形を変えながらも最終章まで貫かれるのです。
指揮者、オーケストラ、共に燃えに燃えた熱演。バーンスタインも絶好調。血が沸き立つような興奮に満ちています。
リンク→ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14 第一楽章(1) 第一楽章(2)
ご興味のある方はぜひ他の楽章も聴いてみてくださいね。