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認知症の指揮者が指揮台に立った そのとき起こった奇跡

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最近、念願のベルリン・フィルを指揮して大成功を収めた指揮者の佐渡裕さんは、合唱出身の人です。小澤征爾さんも合唱出身ということを思うと、合唱には音楽の根源的な魅力があるのではないかと思わずにはいられません。
 
合唱雑誌「ハーモニー」157号に、その佐渡裕さんのエッセイが掲載され、合唱への深い思いが綴られていました。
 
佐渡さんは小学生から中学生にかけて、京都市少年合唱団に所属していました。そこでお世話になった指揮者の福澤雅彦先生は、みんなの憧れる世界一素晴らしい指揮者。初めて指揮者という神聖な仕事に触れ、佐渡さんが後に指揮者となるきっかけにもなった方だそうです。
 
2007年に京都市少年合唱団は50周年を迎え、もう一度福澤先生の指揮で歌いたいと思った佐渡さん。しかし演奏会直前、すでに80歳の先生は急激に認知症が始まってしまったのです。「ぜひ振らせてやってください」という息子さんの後押しで本番を迎えました。

     ・・・・・(以下引用)・・・・・
 
僕が先生の手を取って指揮台にお連れしましたが、タキシードを着た自分が今から何をするのか、先生はまったく理解されておらず、僕は内心ドキドキしていました。ですが、いったん指揮棒を構えられると時は完全に40年前に戻り、先生は全身全霊を音楽に捧げる世界一の指揮者になられたのです。演奏を終えるとすぐに誰が指揮をしていたのかを忘れ、お客様とともに我々に拍手喝采をしておられましたが、先生の身体に刻まれた音の喜びは、けっして失われることのない記憶なのだと知り、目頭が熱くなりました・・・。
 
     ・・・・・(以上引用)・・・・・

私は以前、老人ホームでのボランティアをしていたことがありました。そこで「赤とんぼ」を最後にみんなで歌ったとき、認知症で表情一つ動かさなかった方が、手拍子をしながらポロポロと泣き始めたのです。
 
そのとき、音楽とは人にとって忘れることのできないものであり、豊かな感情さえも呼び覚ますものなのだ、ということを身をもって体験しました。
 
人は心の奥底に音楽という宝を持って生きている。
それは、何物にも代えがたい抱きしめたくなるような記憶なんですね。
そんな宝を持っている人は幸せです。
 
もしできるなら、大事な宝物を持ってもらえるような手助けがしたい。
そんなことを思いました。

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