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「輪廻のラグランジェ」は何があざといか

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このブログのタイトルが一番あざといんじゃないかという問題はさておき^_^;、昨晩、NHK「クローズアップ現代」で放送された「アニメを旅する若者たち“聖地巡礼”の舞台裏」が話題になっていました。全体的には大人向けのアニメの放送時間が増えた反面、制作時間や経費の削減したいプロダクションと、アニメによる経済効果を狙う自治体との協力関係を示したもので、よい内容だったと思います。

ほとんどのアニメは成功事例として紹介されていたのですが、「輪廻のラグランジェ」というアニメについては「やりかたがあざとい」という面が強調され、ネガティブな印象を持たれてしまうような内容でした。ラグランジェの公式ブログには放送を楽しみにしていたようなエントリがあるので、関係者には予想外の内容だったのではないかと思います。NHK オンデマンドでの配信が停止されてしまったのも、何かしらのクレームがあったのではないかと勘繰ってしまいます。

Comics36_lo■映画製作者と協力者の“Win-Win”

番組では、近年増えてきた大人向けアニメ(深夜アニメ)に特化した内容になっていましたが、商品や地域の宣伝効果を狙い企業や自治体などの協力を得るといったことは古くからあります。対価を払ってコマーシャルを放送するスポンサーとは別に、ドラマのエンドロールなどで“協力”として社名や地域名がずらずら出てくることも珍しくありません。私も Borland 時代に、テレビドラマの何秒かの映像のためにプログラムを作ったことがあります。“タイアップ”という形で、より密接に協力関係がアピールされることもあります。日本の音楽チャートの上位にランキングされる曲で、何もタイアップしていないものはほとんどないでしょう。

また、近年は地域の活性化を目的として地元の積極的な協力するための組織としてフィルム・コミッションというものが増えています。詳しい内容については wikipedia の項目に任せますが、時間やコストを節約したい映画製作者と、商品や地域を取り上げてもらえる企業や自治体との“Win-Win”の関係が成立することを期待して、成り立っています。よりよい作品になる方向に機能するのであれば、よいことだと思います。

必ずしもすべての作品で“Win-Win”になるわけではありません。Borland 時代の例として、もう1件映画制作への協力話があったのですが、いくらかのやりとりがあった後、なしのつぶてになってしまったことがあります。聞いていた映画の名前を後で探しても見つからなかったので、完成しなかったのでしょう。地元の協力を得て製作した映画なのに、過激な描写が原因で完成記念の上映会がなくなってしまったというもあります。昨晩の「クローズアップ現代」では、「花咲くいろは」というアニメの架空の祭りが現実化した例が取り上げられていましたが、皮肉なことに、このアニメにも映画制作への協力が失敗に終わるトピックがあります。

■ストーリーへの影響

当然ながら、協力する側はそれなりのメリットを期待します。とくにテレビ番組では“スポンサーの意向”で内容が捻じ曲げられてしまうといったことが話題になることもありますが、協力するからには最新の商品をたくさん出してほしいとか、地元の名所を紹介してほしいといった要望があり、それに応えすぎると、番組そのものに悪影響を及ぼすことがあります。

正確な記憶ではありませんが、倉本聰さんが「お金のない若い女性を主人公にしたドラマだったのに、オシャレな服を着ていて、しかもコマーシャルのたびに服が変わる。協力会社への配慮とはいえ、ストーリーが台無しになってしまった」とエッセイに書かれていたことがあります。本来、そうしたストーリーへの配慮もまた、関係者(とくにプロデューサー?)の大事な役割ではないかと思います。もっとも、“そんなことは関係者が一番わかっている事情”でもあるのでしょうが。

■輪廻のラグランジェ

ご覧になった方はおわかりでしょうが、「輪廻のラグランジェ」の鴨川の取り上げられ方はたしかに強調されすぎな印象があります。サブタイトルには毎回「鴨川」が入っていますし、ストーリーの本題に関係ない部分で鴨川関係のトピックが入り込んできます。映画「トゥルーマン・ショー」では、番組中でさりげなく(実際にはわざとらしく)商品の説明をする場面が出てくるのですが、それを思い出します。

では、それらがストーリーに悪影響を与えているかというと、そんなこともないように思います。もちろん、コマーシャルじゃないのですから強調せずとも舞台になっているだけで、それなりの宣伝効果は得られるはずですし、強調しすぎることで“興醒め”させてしまうおそれはあります。しかし、鴨川市だけでなく、ロボットデザインには日産が協力しているそうで(私はロボットファンではないのですが)ロボットの造形や動きなど映像部分でもかなり力が入っていると思います(映像の質が高いのは、本作品に限らず最近の傾向のようですが)。

どちらかというと気になるのは、主人公たちが“脱ぎすぎる”ことでしょうか。最近のアニメは、過激な描写をしたうえで放送時には規制をかけ、規制をなくした Blu-ray/DVD を買ってもらうことを意図しているものも多いそうです。本作品は、そういう規制がかかるほどのものではないのですが(鴨川市の協力を得るには難しいのでしょう)、平たく言えば“ちょいエロ”な表現がちらほらと出てきます。そういうものの方が売れるのかもしれませんけど、それこそが“あざとい”のではないかという気がしてなりません(いや、決してキライなわけではないですが)。これを毎回、鴨川市の職員の人が観て、ああだこうだと評価しているのかと思うと、ちょっとニヤリとしてしまいます。

なお、放送時間は公式サイトに書かれていますが、バンダイチャンネルでも初回と最新話が配信されています。すでに終盤にさしかかっていますが、鴨川がどんな風に描写されているのかご自身の目で確かめてみるのもよいかと思います。

※2012/3/09追記。はてブのコメントで、そもそも番組が誘導した方向性に疑問があるという、関係者の発言(togetter)をご紹介いただきました。合わせてご覧ください。→ http://togetter.com/li/269207

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