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「Gumroad の問題点」の問題点

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話題の Gumroad について「Gumroad の問題点についてもう少し掘り下げてみました。」というエントリがありましたが、色々誤解されている印象がありました。

Comics24_lo■Gumroad は信用できるか

Gumroad に限らず、ベンチャー企業につきまとう問題であり、誰も“絶対に大丈夫”という太鼓判を押すことはできないでしょう。かつてドメイン名に関しては比較的長い期間信頼されてきたドロップキャッチ業者からクレジットカードが漏れたらしい、という話もありました。

しかし、PayPal のアドレスを伝えることが、悪用を懸念すべきということにはなりません。PayPal で送金に使うのはメールアドレスだけで、パスワードを知られなければ勝手に支払われることはないからです(むしろ、この点が PayPal の利点)。クレジットカードの場合には番号/有効期限/名義が知られてしまうと無断使用されるおそれはあるので、ユーザー側にはリスクがあります。しかし、そうした点は他のネットサービスにも共通することなので、Gumroad だけを取り上げてもしかたがないように思います。

■同人誌の販売と著作権

わいせつなコンテンツは禁止されていると懸念されていますが、日本でも「わいせつ物」の頒布は罪になります。「何がわいせつか」という基準が人や国によって違ったり、コミケや Gumroad で違うことはありますし、日本の表現が米国で幼児ポルノとみなされかねないという話も聞きますが、「わいせつ」という基準が明確になっているわけではありません。あまりリスクばかり煽らない方がよいと思います。

また、「著作権に関しては1998年のデジタルミレニアム著作権法(DMCA)が適用されます」と書かれているのも疑問です。もちろん、Gumroad は著作権の問題が起きたら DMCA を基準に考えようとするでしょう。あるいは「検索エンジンは日本の著作権法を逃れるために海外にサーバーを置いている(だから日本でネットビジネスは育たない)」という話がまことしやかに伝えられることがあります。著作権は属地主義(行為の行われた国の法律を適用すること)が取られるとも聞きます。

考えてみてください。サーバーを海外に置くだけで日本の著作権法を逃れることができるなら、ベンチャー企業にとっては“サーバーの置き場所”以外に何の障害もないはずです。本来、日本の著作権法が海外よりも厳しいという認識そのものに疑問はあり、このエントリがアメリカの著作権法が適用されることを“懸念”としていることが、その一端のあらわれでもあると思います。しかし、海外にサーバーを置くことで(日本の捜査が及びにくくなるという面はあっても)海外の法律が適用されるということは、懸念という意味でも期待という意味でも正しくないと言えます(※)。
※「JASRACネットワーク課の野方英樹氏は「配信者属地主義」という言葉で説明している」(「山崎潤一郎のネットで流行るものII」のエントリより)

そもそも著作権者に許可を取っていない二次的著作物は、著作権者がアウトだと言えば、日本国内でもアウトになる(可能性が高い)のであって、親告罪だから大丈夫だとか、非親告罪になれば(被害届もなく)アウトになるという認識も問題です。二次創作の作者も、オリジナルの著作権者も日本にいるのであれば、プラットフォームが海外製であろうと、通常は日本で裁判を起こすことになり、日本の法律が適用されるでしょう。

■Gumroad の魅力

自分で PayPal を使えば、Gumroad に手数料を支払う必要はなくなるというのは、たしかにその通りです。しかし、まさに「自分で PayPal を使って商品をダウンロードする仕組みを作る手間」を省きたいから Gumroad を使う魅力があるのでしょう。技術的に難しいものではないので、類似のサービスが登場するかもしれませんし、それこそ PayPal のような決済サービスのオプションに追加されることになるかもしれません。

むしろ、個人レベルで売り物になるレベルのコンテンツがどれだけ登場するか、ということの方が気になります。タレントや有名人などが使うならともかく、「Gumroad を使ったから」アマチュアの作品が売れ始めるというものではないでしょう。

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