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返却後も使い続けられるレンタルCDの特異性

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何度か触れたことですが、「レンタルCD」は日本独自の制度であり、世界を見わたしても同様の業態はありません。また、CD の中には CCCD という複製を防止する仕組みを持つ CD もありますが、ほとんどの CD にはなく、「複製して返却後も使い続けられる」ことが認められているという意味でレンタル業の中でも特異な存在です。

Comics16_lo■コンテンツ・ビジネスと著作権

著作物にも、絵画や人形といった“一点もの”というビジネスはありますが、一般にコンテンツ・ビジネスとは著作物を大量に複製することで成り立っています。多額の費用が必要な著作物でも、大量に複製することで一人一人の負担を安く済ませることができます。もし、“自分のためだけに”映画や音楽を作ってもらうとしたら相当な出費を覚悟しなければなりません。

また、昨今の著作権の条文が増えているのは、複製技術が多様化しているためです。とくに民生用の複製装置は大きく進歩しています。逆に、複製が容易でなかった時代には、著作権が今ほど重要視はされていませんでした。かつて、アメリカでは著作権で方式主義を取っていましたが、この時代に著作権表記をしなかった「ローマの休日」は著作権を放棄したとみなされています。しかし、当時は映写技術も複製技術も一般向けには普及していなかったため、さほど問題にもならなかったのでしょう。

■レンタルCDの背景

レンタルCDの制度は、元々アナログレコードからはじまったものです。当時は「レコードを試聴するためのサービスで、レコードが欲しいと思った人は買う」と言い訳されていました。レコードレンタルが始まった頃にも著作権の問題は提起されていましたが、すでにレンタル店が広まっていたこともあり、合法化する立法措置が取られました。その後、海外からの反発があって、1年間の保留期間が設定されました。

レコードから CD に移り変わった頃にも、ダビング先はカセットテープでした。DAT(Digigal Audio Tape)の登場によって「劣化しない複製」が問題になりましたが、SCMS という孫コピー防止機能を導入した民生用機が登場しました。デジタル複製は一世代のみという仕組みは MD にも引き継がれましたが、パソコン用 CD-ROM ドライブの登場と mp3 リッピングの普及で“業界の合意”の意味が薄れていきましたが、貸与に関する法律が変わったわけではありませんでした。

■複製して譲渡は“フェア”か

著作物の販売や頒布には権利者の許諾が必要ですが、購入した著作物を誰かに譲渡する際には著作権者の許諾は要りません(権利の消尽、著作権法第26条の2第2項)。そうでなければ古本を売買したり、要らなくなったCD を誰かにあげる場合にまで著作権者の許諾が必要ということになってしまいます。中古ゲームの販売については訴訟沙汰になり最高裁まで争われましたが、合法という判断が下されています。

では、複製して譲渡するという行為はどうでしょうか。私的複製は、日本では明文で認められていますし、譲渡の条件として複製物の削除が要求されているわけでもないので合法です。(譲渡ではなく貸与ですが)レンタル店で借りたCDの複製については、文化庁のウェブサイトで明確に問題がないと示されているくらいですから、脱法行為と言われることもありません。

フェアユースのあるアメリカではどうでしょう。かつてネット上で不要になったCDを交換する「Lala」というサービスが登場したことがあります。すでに、そのサービスは終了してしまいましたが、「Lala、インターネットラジオでCDスワッピングと販売を活性化」(TechCrunch)という記事では、このように書かれています。

たぶんLalaで一番普通と違うのは、参加者がスワッピングでCDを発送する際、CDからコピーしたデジタル楽曲は削除しなくてはならないことだ。これは大袈裟なようだが法的にはどうしても必要なこと。…

私自身も当時の規約で、CD を送付する前にリッピングした楽曲データを削除することが利用規約に書かれていました。複製して譲渡することが合法であることが明白なら、わざわざユーザーの不利になる縛りを設ける必要はないはずです(この縛りは Lala にとっても有益ではありません)。実際に裁判が起きた例はわかりませんでしたし、そもそも譲渡前に削除したかどうかは自己申告程度でしか判断できません。しかし、複製して譲渡する行為は、フェアユースにおいても真っ白と言えるわけではないようです。

■著作権に関する世界知的所有権機関条約

現在、著作物が権利者に無断で貸与できないことは、日本をはじめ多くの国が批准している「著作権に関する世界知的所有権機関条約」で規定されています。

第七条 貸与権
(1) 次に掲げるものの著作者は、当該著作物の原作品又は複製物について、公衆への商業的貸与を許諾する排他的権利を享有する。
   (i) コンピュータ・プログラム
(ii) 映画の著作物
(iii) レコードに収録された著作物であって締約国の国内法令で定めるもの

(2) (1)の規定は、次の場合には適用しない。
(i) コンピュータ・プログラムについては、当該コンピュータ・プログラム自体が貸与の本質的な対象でない場合
(ii) 映画の著作物については、商業的貸与が当該著作物に関する排他的複製権を著しく侵害するような広範な複製をもたらさない場合

たとえば、日本でも市販の DVD を使ってビデオレンタル業をはじめることはできません。しかし、この規定のままだと、とくに洋楽 CD はいっさいレンタルできなくなるおそれもあります。そこで、次のような規定が追加されています。

(3) (1)の規定にかかわらず、レコードに収録された著作物の貸与に関して著作者に対する衡平な報酬の制度を遅くとも千九百九十四年四月十五日以降継続して有している締約国は、レコードに収録された著作物の商業的貸与が著作者の排他的複製権の著しい侵害を生じさせていないことを条件として、当該制度を維持することができる。

日本だけ特別扱いされているわけです。

貸与権が設定されているからといってレンタル業が一切禁じられるわけではありません。許諾が必要なだけです。実際、ビデオレンタルは世界中にあります。一般的に、音楽は“繰り返し”聴くことが多いのに対し、ビデオの視聴は“一度きり”であることが多いので、返却後に使えなくても問題はありません。しかし、海外のレコード会社からレンタルCDをやらせてみようという話は出ないようです。本来、メジャーな洋楽は4大レーベルに集約されているのですから、レコード会社にとって“メリット”があるなら料率を決めて許諾するだけです。ユーザー側の需要がないとも思えません。通常のCDどころか、音楽配信に比べても大幅に安価だからです。

レンタルCDの功罪については「音楽コンテンツの値段」でも触れましたが、レンタルCDは音楽データの大幅な安売りであり、通常のCDや音楽配信に大きな影響を与えています。そして、海外の事情と比べてみれば、日本のレンタルCDの特異性はユーザー側に大きな利点のある制度だと認識できます。

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