「動画共有サイトの訪問者数と視聴時間が激増」における驚き
ビデオリサーチインタラクティブが発行したプレスリリース「動画共有サイトへの2007年1年間トータルの訪問者数は、2,400万人超(対前年比216%)」が、メディアで取り上げられています。隆盛が伝えられている動画共有サイトですが、プレスリリースによれば昨年12月の推定訪問者数が1262万人、平均滞在時間が月間2時間30分となっています。「なんだ、そんな程度?」と思われないでしょうか。
すでに「ニコニコ動画がテレビの座を奪う日は来ない--ひろゆき氏の分析」で、西村氏自身が同じことを書いてはいるのですが、とてもテレビと比べられるような「量」ではありません。この記事によればニコニコ動画の回線は60Gbps、動画の転送レートは500kbpsだそうですから、もともと同時に視聴できるのは単純計算で12万人程度です。NHK による「平成19年11月全国個人視聴率調査の結果」(PDF形式)によれば、個人視聴率1%あたりの推定視聴者数が118万人ですから、すべての視聴を合計しても視聴率ベースで0.1%にしかならないわけです(家族でパソコン動画を見るということが想定しにくいので、個人視聴率と比較しています)。
この資料には、テレビの平均視聴時間も掲載されていますが、1日あたり3時間53分となっています。別の調査「2005年、国民生活時間調査」(PDF形式)によれば、テレビ視聴のうち3分の1くらいは他のことをしながら見る「ながら視聴」だそうですが、計算にはテレビを見ない人も含まれています。ニコニコ動画を同じ母集団で計算しなおすと(2時間30分×1262万人÷1.2億人=約15分/月)、1日あたりの平均視聴時間は1分以下となります。資料からわかるとおり、平均視聴時間は(時間に余裕のある)お年寄りが引き上げているわけですが、それでも「テレビの視聴」という習慣をパソコン動画が置き換えることはなかなか難しいのかもしれません。
すでに「P2P ソフト」が「CD の売上げ」に与える影響について、もともと規模が違いすぎるので、その「割合」については宣伝効果も被害額も小さいというエントリを書いたわけですが、「動画共有サイト」と「テレビ」についても同じことが言えるような気がします。なにしろ、動画共有サイトの「成功」の基準が、「テレビでよく見るようになった」とされていたりもするようです。1年ほど前にも「テレビは終わっているか?」というエントリを書いたのですが、西村氏の言葉を広げれば「ネット動画がテレビの座を奪う日」も、なかなか来そうにありません。
もちろん、パソコンで動画を視聴する人々が増えてきているというのは事実でしょう。これは動画配信サービスの提供者にとって大きなチャンスだといえます。その意味で、動画共有サイトへの不正な投稿が、まじめに運営されている動画配信サービスの脅威になっているおそれはあるでしょう。もともと、コンテンツがさまざまな動画配信サービスに分散して置かれているのは、それぞれの動画配信サービスの間で品揃えや画質、価格などを競争させ、利用者によりよいサービスが提供されるという意味でよいことだと思いますが、不正投稿で共有サイトに集約されることを「便利」だと喜ぶ風潮が広まるようでは、まじめな運営者はカチンとくるでしょうね。
※このエントリでは、IPマルチキャストについては考慮していません。