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今回は、報酬請求権について考えてみます。ときどき話題になる「著作物の報酬請求権化を進めるべき」という件について、1年ほど前に「思考実験「音楽配信法」と包括ライセンスの幻想」というエントリを書きました。冗談として書いたものでしたし、それほど明確に考えていたわけでもなかったのですが、このエントリには報酬請求権化を進めるために2つの重要な要素が含まれています。

ひとつは登録制を取るということです。報酬請求権を得るということは、当然、報酬を受け取るための手続き(銀行口座の登録など)が必要です。登録されない著作物の報酬を支払う手立てはありません。たとえば、JASRAC は、まさに楽曲を登録することで許諾権を失う代わりに報酬請求権を得る仕組みを提供しているわけです。JASRAC の場合、登録されていない著作物の許諾権は引き続き著作権者が維持することになります。先のエントリでも、登録されない楽曲のことは諦めよう、と書きました。

これに対し、登録しない著作物については「許諾権も報酬請求権もなくす」と制度化することも考えられます。たしかに、こうすれば登録されない楽曲は少なくなるでしょう。しかし、許諾権を報酬請求権に換えるということは、商業主義に乗っかるということですよね。個別の許諾を判断する手間を省く代わりに対価を得るわけですから。wikipedia によれば、『ムーミン』は行き過ぎた商業主義を避けるためにディズニーとの契約を断っているそうです。また、先日書いたような「JASRAC に縛られない権利」は失われることになります。行き過ぎた商業主義にならないような報酬請求権制度にするのだとしても、思い入れを持った作品が勝手に使われることを拒否できなくなる制度化が、万人に望まれていることだとは私には信じがたいです(逆に JASRAC に登録した楽曲について、「誰かは歌わせないぞ」とは言えなくなるのですが)。

もうひとつのとても重要な要素は、魅力的な原資を生み出す仕組みを用意するということです。登録を促すためには、かならずしも金銭的な魅力である必要はないのですが、多くの人が望んでいるであろう商用コンテンツを招き入れるためには金銭的魅力は欠かせないでしょう。思考実験エントリでは、ブロードバンド契約者から月額500円程度を一律徴収することにしました。これは ISP 単位や個人単位で自主的が支払うという点を除けば、EFF の提案とほぼ同じものです。TechCrunch によれば、本気でISP税を訴えている人もいて、ここでは酷評されているのですが、日本にはNHK 受信料という制度もあるとおり、公平性を維持する目的で一律に徴収することが異常というわけではありません(個人的には、NHK 受信料制度も含めて反対ですけれど)。そして、日本のブロードバンド契約数は2000万を超えますから年間1200億円という、かなり魅力的な原資になります(それでも NHK 受信料総額の数分の1です)。

このような魅力的な原資があるからこそ、楽曲登録が進むことになります。現在、原盤権はレコード会社が持っているばかりでなく、アーティストの所属事務所が持っているケースもあるようですが、魅力的な原資のある場所を作りさえすれば、そこに登録が集まり、個別の許諾を必要としない原盤権の利用が可能になるというわけです。実際、JASRAC も全体では1000億円という収入を得ているからこそ、許諾権を放棄して報酬請求権を得る楽曲が集まってくるのです。逆に、わずかな収入しか見込めないのであれば、「登録せよ」と強制しようとしたところで見向きもされないでしょう。たとえば、「あなたの書籍をオンライン化して1部20円で売りなさい」と言われて受け入れる作家がどれくらいいるかを想像してみるとよいでしょう。

また、先に書いたような商業的成功を望むばかりでない著作者にとっては、魅力的に見えないかもしれません。冒頭のように主張する人は「著作者のインセンティブは商業的成功ではない」とおっしゃったりもするわけですが、そうであるなら報酬請求権化を望まない著作物について、どうすべきだと考えられているのでしょう。

繰り返し書いているとおり、著作物をどのように扱うかという判断は、著作権者に任せるべきだと思います。ジャニーズのように頑なにインターネットを拒んでいる例はありますが、現在、多くの日本の楽曲が「携帯音楽配信」(着うた)という“報酬請求権”に取り込まれていることからもわかるとおり、法制度を変更しなくたって、著作権者にとって魅力的な仕組みを作り上げることさえできれば、報酬請求権化はどんどん進むわけです。もちろん、口先だけで「魅力的なのだ」と強弁してもダメですよ。これも「ちょっと考えればわかりそうなこと」ですね。というわけで、「ちょっと考えればわかりそうなことを長々と考察する」シリーズは、なかなか終わりません^_^;

※補足。
報酬請求権化を促進する要素として「P2P ソフトを使うこと」を持ち込んで考える人がいますが、これらは無関係です。Akamai が有名ですが、インターネット上のコンテンツ配信については CDN(Content Delivery Network)という最適化されれたインフラが整備されており、実際に楽曲や動画の配信で多用されています(P2P 技術が、実装に使われることはある)。P2P によって、こうしたサービスを使わなくてもすむインフラを構築できるかもしれませんが、それはインフラ構築のコストを(わずかに)引き下げるだけで、コンテンツから対価を徴収できるかどうかとは関係ありません。さらに言えば、CDN を使わず(最適化せず)にインフラを構築することは、かえってネットワーク転送量を増やし、ISP の負荷を無駄に増大させるおそれがあります。

mohno

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大野 元久

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平成元年にIT業界に入って以来、開発ツールに関わり、主にマーケティング中心に活動してきました。現在はフリーランス。

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