ハーバードビジネススクールのカリキュラムが変わります:ThinkingからDoing 、そしてBeingへ
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この原稿は3月11日に書き始めた。東日本大震災で、書き始めたことすらも忘れていたが、先日思い出し、改めて書いてみることにした。My thoughts and prayers are with those in the affected areas. 被災地のみなさまに心よりの祈りを。
昨年夏にハーバードビジネススクール(HBS)学長に就任したNitin Nohria。彼のリーダーシップのもと、MBAのプログラムの大幅な見直しが進んでいることは秋ぐらいから仲良しの先生たちから聞いていた。見直しを率いていたのは著者"Difference"(日本語名「ビジネスで一番大切なこと」)が世界的なベストセラーとなった女性の教授Youngme Moon。MBAでも大人気のスター教授だ。改革案は1月半ばに教授会で承認され1月末に発表された。それからしばらく時間がたっているのでご存知の方も多いかもしれない。
HBSのMBAでは、1年生は、戦略・マーケティング・ファイナンス・組織行動・会計・技術管理・倫理とリーダーシップ・マクロ経済と政策・アントレプレナーシップといった科目を週に13クラスという脅威の密度でみっちり学び、2年生になったら自分の好きな科目をとるという構成になっている。そして全てのクラスは基本的にはケース・メソッド。多岐に渡る事例について書かれたケースを読み、自分だったらどうするかを考え議論する。
ケースディスカッションによる疑似体験だけではなく、直接的現地に行ってそこの空気を吸い人と交わり肌で感じる体験をしてもらおうということで、授業がない1月に、学生が世界の国や地域にグループで出かけ、特定のテーマについて調べ体験しまとめる、というImmersion Program(「どっぷり漬かるプログラム」とでも訳せようか)が数年前に導入された。このプログラムは毎年拡大してきており、今回の変更につながっている。
変更の肝は1年生向けにFIELD(Field Immersion Experiences for Leadership Development)という必修コースが新設されること。学生に「経験に基づき、どっぷり漬かり、チームによる学びの機会」を提供するのが目的であり、以下の3つがポイントとなる。
- 学生に「リーダーシップの担うより深い目的」を自ら発見する機会を提供する。そしてこれこそがビジネススクールでの日々、そして卒業後の人生における基盤となる。
- 学生の「グローバル・インテリジェンス(グローバルな知性)」を育む。特に、戦略、実践、行動において、何がグローバルに共通し、何が異なるのかということへの理解を深める。そのために、グローバルビジネスに関する新しい教材を増やし、また今までは自主参加であったImmersion Programの参加を必須とする。
- 学校として、ただ知識を与えるだけではなく、実践の経験を提供することを通じたリーダー育成にコミットする。
加えて、2年生のコースも「80分のケースディスカッション」という定型の授業を減らし、実地のプロジェクトやゲストを招いての2時間のクラスなど、柔軟な授業構成を可能にした。そうすることで教える側にもよりクリエイティブな授業構成を促す、という。
この変更には、金融危機以降の学校の自省が反映されている。「世界に変化を起こすリーダーの育成」は常に変わらぬミッションとして掲げつつも、やはり学生をクライアントとするビジネススクールなので、学生の興味に合わせ、金融にかなり重きを置いていた時期もあった。B2Bマーケティングの講義ですら「プライベート・エクイティの会社をテーマにしたケースを書きたい」と先生に言われ、理由を聞いたら「そうすると学生の反応がいいから」と聞いたことをよく覚えている。
そして起こった金融危機。ウォールストリートに相当数の人材を輩出してきた学校のひとつとして、一体自分たちが行ってきたことは正しかったのか、もう一度自分たちの提供する価値を見直す必要があるのでは、という機運が高まった。学長もインド人でリーダーシップや倫理を専門としてきたNitinが就任した。
今回の変更については「ケーススタディを通じてThinkingを鍛えることが長い間HBSの教育の中心だった。そこにImmersion Programを導入するなど、Doingを入れ込み始めた。今回の変更で、Doingをさらに強化し、加えて Beingについても振り返り育む機会を設ける」とMoon教授は説明したそうだ。
ThinkingからDoing、そしてBeingへ。
西海岸やヨーロッパのビジネススクールはずいぶん早い時期から様々なカリキュラム変更を行ってきており、そういった学校から見たら、今回のHBSの変更は大したことなく映るかもしれない。実際の変更も、Doingはわかるが、Beingについてどう取り組むかは、まだそれほど具体案が伴っていない印象を受ける。でも「資本主義の士官学校」と言われてきたHBSにおいて、人のあり方、といったものにも正面から取り組もうという動きが出てきたのは、非常に意義のあることだと思っている。
そして、これは個人的な思いだけれども、震災を受け、Being-それぞれの人としてのあり方-がぐぐっと前面に出てきたように感じている。ThinkingもDoingも結局Beingが伴わなければ空中分解してしまう、ということは、自分の一連の感情や行動を通じて痛感したし、テレビの中のリーダーと言われる人たちの姿を見ても思った。
現在東京大学でもリーダーシッププログラムに関わっている。そこをはじめとして、日本での質の高いリーダーシップ教育の機会の創出に、微力ながらできることをやっていきたいと思っている。http://www.ghlp.m.u-tokyo.ac.jp/
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