あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

なぜITシステムは「安物買いの銭失い」になりやすいのか?あるいは買い物における2つのルール

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1年かけてコンセプトメイク、物件探し、基本設計・・と進めてきたケンブリッジの新オフィスづくりがようやく終りを迎え、この週末で引っ越した。すごくいい。

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(引越し後のオフィスで、ダンボールに囲まれながらこの記事を書いている)




どういいのかはそのうち書くと思うけど、これは僕らにとって非常に貴重な体験だった。それは、

「普段サービスを提供している僕らの会社が、サービスを提供される側の経験をする」

ということだ。

そもそもコンサルティング会社は工場や在庫を持たない、シンプルなビジネスだ。同様に、サービスもあまり購入しない。一緒にプロジェクトをやるパートナーを雇うことはあるけれども、「自分がお客さんとして、サービスをお願いし、対価を払う」はほとんどない。
だから今回オフィスを作るために「オフィス空間をデザインするプロフェッショナル」の方々と一緒に仕事をできたのは、普段自分たちがやっていることの逆、つまりお客さんの気持ちが味わえる、ということで実に有意義だった。
そして、「オフィスづくり」みたいなサービスを購入するのは、僕らに限らずほとんどの人は慣れてないから気をつけたほうがいいよ、というのがこの記事の趣旨だ。


★ITシステムの構築は「買い物」ではない
話は飛ぶが、ITシステムは「安物買いの銭失い」になりやすい。
予算の制約が厳しくて、「一番安いベンダーに構築を依頼したら、全然進まなくてプロジェクトが頓挫した」みたいな話はそこらじゅうにある。
そうなってしまう原因は色んな切り口から語れるが、発注側がテレビを買うのと同じ感覚で、なるべく安いものを買おうとして失敗する、というのが結構大きい。
そもそも、お金を出して何かを手に入れる行動には、大きく分けて2種類あるのだ。

パターンA:テレビを買う時
・必要なスペックを決める
・それを満たす製品を選定する
・量販店やらネットやらで最安値を探す
・店員さんに値下げ交渉
・決定

パターンB:ITシステムの構築やオフィスづくり
お金を出して何かを手に入れるのは同じだが、テレビの時とは決定的に違う点がいくつかある。
a) 契約の段階では必要なスペックが完璧には決まっていない
b) 買ってからスペックの詳細を決める
c) 買う人と売る人が一緒に作業する
d) 結果として、手に入るものが本当に判明するのは最後

この違いは決定的だ。
パターンBをやるべき時に、パターンA(テレビの買い物)と同じノリで買おうとすると、本当にヤバイことになる。
だが、普通の人間は物心ついてから「買い物」は何千回としているのに、パターンBの経験はほとんどない。例えば僕の場合は今回で2回目だ(自宅を建てたときと今回のオフィスを作った時)。マンションとか車みたいに、値段が高くてもパターンAの方が普通だから、一回も経験がない人の方が多いと思う。まあ、しいて言えば美容院で髪切ってもらうとか、結婚式はパターンBかな。

パターンAの経験しかないから無意識に、テレビを買うのと同じマインドでITシステムを買おうとしてしまう。


★安いものを買うリスク
同じ型番のテレビを買う場合、10万の店と9万の店があるならば普通は9万の店で買ったほうがいい。同じものなんだから当たり前だ(配送だのポイントだのはこの際おいておく)。

だがITシステムを構築する場合、同じ条件で見積を出して安く提案してくれたベンダーを選ぶのは、結構リスクが大きい。実は大失敗プロジェクトへの一本道だったりする。そのからくりはこうだ。


1)関わる人の単価はあんまり関係ないかも
ソフトウェアエンジニアの世界では、人によって生産性が2倍とか3倍、さらには10倍とか違ってくる。そして腕が悪いエンジニアが全体設計を担当すると、「そもそも作らなくていいこと、やらなくていいこと」にたくさんの時間とお金を使ってしまうケースもある。その場合、生産性の違いは無限大倍だ。
なので、もしA社の見積もりよりB社の方が30%高かったとしても、「やることはおんなじなのに、B社のほうが給料が30%高いから総金額も高くなる」と素朴に思わない方がいい。もしB社の方が給料が高い代わりにスキルも高かったとしたら、30%の給与差なんて吹っ飛んでしまう確率が高いからだ。


2)入札のジレンマ
テレビと違って、ITシステムのように事前にスペックを完全には定義できない場合、「その案件について最も無知な会社がもっとも安い見積をしやすい」と言われている。
似たような案件を経験していたり技術力があればあるほど、要求されているものをきちんと作ろうとした時の困難さやリスクをあらかじめ予想できる。自然と見積金額は高くなる。一方で、経験も技術力もない会社は「まあ、こんなもんで出来るっしょ」と思いがちだ。
本当に仕事を頼みたいのはもちろん前者なのだが、公官庁がやっているように「入札≒安い会社にやらせる仕組み」で業者を選ぶと、一番理解していない、一番能力がないやばいヤツらを選ぶことになりやすい。
(だからもちろん、価格以外も評価する仕組みにはなっているが、それでもやはり・・)


3)安い高い、のかなりの部分は発注側が握っている
上で書いたように、ITシステムやオフィスづくりには、
b) 買ってからスペックを決める
c) 買う人と売る人が一緒に作業する
という特徴がある。

どんなに契約前に要求スペックを明確にして、この要求どおりに作ってください、と言っていても限度がある。ソフトウェアの場合は、100%完璧なスペックが記述できた時というのは、システムがほぼ完成する時なのだ。
だからこそ、契約を結んだ後に一緒にスペックを詰めていくことになるし、この詰め方一つで、価格はかなり変わってくる。特にパッケージを使った開発の場合は、「作って欲しいもの」と「パッケージで実現できるもの」をすり合わせていく(パッケージの機能を限界まで使った上で、欲しいものも妥協する)。
このすり合わせの作業がうまくいくかどうかは、発注側の腹のくくり方と、それを作り手がうまくリードできるかにかかっている。
この辺も、TVを買うのとは、全然違う活動になる。
そして、最初に安く値付けをする会社がこのすり合わせをうまくリード出来る確率は、極めて低い。

そんなこんなで、「安い提案⇒後でやばくなる」になりやすい。
じゃあ、「安くて、品質も良いものを買う」はITシステムでは全くありえないのか?といえば、そんなことはない。ITシステムが安いのは、プロジェクトに携わる人手が少ない時だ。例えば、
・過去に似たプロジェクトを何度も経験していて、工程を端折れる
・楽に開発が出来るように、あらかじめツールを整えてある
・他社よりずっと業務にフィットしたパッケージを利用する
など。

問題は、仕事を一緒に始める前にこれらを見極めるのは、プロでも結構難しいことだ。
つまり、見極め力にあまり自信がないのであれば、安く提案してくるITベンダーに飛びつくのは、「安物買いの銭失い」になるリスクが結構あるよ、というのは知っておいたほうがいい。



※注記:この記事でいう「ITシステム」とは、単なるツールとしてのITではなく、企業の業務そのものを規定するシステム(例えば販売管理システム、生産管理システム・・)を指します。
そのあたりについては、下記の記事を参照してください。

会社にとってITとは何なのか?あるいは、ITは道具ではない

あと、この辺については僕の3冊目の本「会社のITはエンジニアに任せるな!」にも詳しく書いたので、それを読んでくれると大変喜びます(僕が)。





※この記事に少し関係する記事

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Comment(2)

コメント

くっすー

基本的には合意ですが、「官公庁の入札≒安い会社にやらせる」は厳密に言うと間違いで、最低価格制度によって不当に安い見積もりを弾く制度はあります。
やり方は二通りで、複数の見積もりの平均額の何%を下回るとダメというケースと、事前に発注者が設定した見積もり金額を下回ったらダメというケースがあります。
ITシステムを発注する時もそういう方針を取ればいいですけどね。前者は可能ですが、後者は自分で見積もれないとできないからハードルが高いかもしれないですね。

くっすーさん、こんにちは。
ご指摘ありがとうございます!
「最低価格制度によって不当に安い見積もりを弾く」は僕が記事で書いた「やばいやつほど無知が故の安い入札をする」への対策なんでしょうね。ただし、最低価格を見極め、設定するのはそもそも至難の技だし、それが漏れると別の不正の温床になったり・・。
ITシステムの構築はかなり発注者側の意思に左右されるので、そのことと公平性を両立させるのは本当に難しいことだし、公官庁のITシステム発注者の苦労も創造できます。

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