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なぜチームは多様であるべきか、あるいはコペルニクス的転回の真実

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★素直なオジサマ達
三重の女性社会参画を推進する会合で、「女性の活躍を数値目標化することになると、男性管理職に早く出て行け、という感じになる。如何なものか」という発言が男性参加者から相次いだ、というニュースが少し前に話題になっていた。

まあ、そういうオジサマたちには言わせておけばいいんじゃないですかね、と思います。むしろ「ポリティカリーコレクト」とか言って(やな言葉だ)、思っていることが発言できない抑圧的な世の中になるよりは、大らかでいいじゃないですか。

僕自身は、もちろん三重のオジサマ達とは逆の意見だ。
ただし、「女性が可愛そうだから、(施しとして)社会参画してもらおう」とか「男女は平等であるべきだ」とか、そういう理想主義的な理由ではない。
多様な組織の方が強い組織だと思っているだけの話だ。純粋に戦略論的な話。損得の話。
それについては後で書くとして、こういう自分とは違う考えのオジサマ達は、放っておけばいいと思う。
考え方を変えてもらおうと、一生懸命言葉を尽くすほど暇じゃない。



★コペルニクス的転回の真実
キリスト教の天動説が支配的だった世の中で、コペルニクスやガリレオが地動説を唱えた話は有名だ。地動説派が異端審問を受けたり、結構大変な目にあったということも。

こういう科学史をよく読むのだが、僕が面白いと思ったエピソードは「科学史家が詳しく調べた所、地動説が本当に主流派になったのは、天動説を唱えていたオジサマ達が死に絶え、次世代の科学者が軒並み地動説を支持したから」という部分だ。

つまり「あなたの地動説の論文は完璧だ。参りました」といって天動説派が考えを改めた訳ではない。地動説が主流派になるには、長い時間をかけて世代交代というメカニズムが必要だったのだ。


女性の社会参画でも、インターネットネイティブなビジネスでも、まあ何でもいいのだが、大きなパラダイム転換が必要な時、必ず「旧守派」と「改革派」という構図になる。

僕はこういう時、ある程度以上は議論をしないことにしている。議論をしても無駄なことが多いからだ。議論をして、「なんとかあのオジサマ達に新しい考えを分かってもらおう、話はそれからだ」というのは、スジが悪い作戦だと思う。

それよりも、自分たちで新しい選択肢を用意し、実績で示したほうが前向きだし、大抵は楽だ。オジサマ達の考えを実績抜きで変えるのは、それほどまでに大変だ。

女性に限らず、組織の多様性をあげるという話も、その手の宗教論争に入り込みそうなテーマだと思う。つまり、生産的な議論に向かない。それよりも多様性が高い組織が、そうでない組織を実績で凌駕すればいい。
もし凌駕できないのであれば、「女性など、多様な人々が集った組織の方が強い」という命題が誤っていた、ということになる。



★なぜ、チームに多様性が必要なのか
イングランドのサッカークラブ、アーセナルを長年率いている名将で、アーセン・ベンゲルという人がいる。昔はJリーグでも監督をしていたし、一時期日本代表監督か?と騒がれたので、知っている方も多いかと思う。僕は一時期アーセナルが好きで、ロンドンで5試合くらい生観戦したことがある(ベルカンプがエースだった時代)。
そのベンゲル監督の言葉で、とても心に残っているものを紹介しよう。


攻撃陣に1人は必ず左利きのプレーヤーが必要だ。その選手を単独で見て、下手なプレーをしていると思っても、我慢して使うべきだ。左利きが1人入っているチームと、全員右利きのチームとでは、全体のパフォーマンスがまるで違う



ひとつのチームを20年近く見続けているサッカーファンとして、これはなんとなく分かる。左利きが混ざっていると、相手チームは色々なパターンに対応しなければならなくなる。ベンゲル監督は「攻撃陣には」という言い方をしているので、守備陣の場合はそれほど右利き左利きの混在は重要ではないのかもしれない。

もちろんこれは純粋にサッカー戦術について語ったコメントだが、僕はこれはチームについての普遍的な話だと思っている。

いや、やるべきことが明確な環境で何かをわーっとやる組織なら、別に多様性なんていらないと思うんですよ。守備陣で左利きが必ずしも必要ではないのと似た感じで。だから、そういう時代に生きてきたオジサマ達が多様性の大事さを理解できないのは、なんとなく分かる(もちろん、理解できる年配の方もたくさんいる)。

でもやるべきことがよく分からず、考えたりデータを集めたり仮説検証したりしながら進まないといけない環境では、同じバックグラウンド、同じ思考、同じ私生活の集団で試行錯誤しても、たかが知れちゃうんだよね。



★プロジェクトチームにも必要な多様性
仕事柄、プロジェクトの立ち上げ期に「どうやって人を集めたらいいでしょうか?」という相談に乗ることが多い。
そこで僕が強調するのは、多様性だ。
リーダーがアクセル役ならブレーキ役を。
リーダーが営業畑なら経理や人事などの本部系を長くやってきた人を。
ベテランが中心メンバーなら、若手を。
企画・アイディア系の人と堅実事務系の人を。
意図的に違う人々を集めた方がいい。

僕のお客さんで、プロジェクトチームを作るのがうまい方にコツを聞いたことがある。

自分とは違うタイプの人に、敢えて入ってもらいます。なぜなら、「正しい反論」が早めに必要だからです。
プロジェクトチームが変革について色々案を練る。
そして自分たちでは完璧だと思って、もう戻れないという時に、プロジェクト外から「こういう理由でおかしいじゃないか」とやられると、致命傷になってしまう。
それよりは、計画を練っている時に、自分とは違う観点から、きちんと反論してもらって、議論を深めた方がいい。
どうでもいい反論ならば気にしなければいいんですよ。
怖いのは、正しい反論です。



この話をこの記事の文脈に沿って言えば、「正しい反論をチーム内でやり取り出来るように、プロジェクトは多様性のあるチームでやろう」ということになる。


何度も言うけど、理想主義から言っているんじゃないんですよ。混沌とした状況を生き抜くためには、多様性が組織に必要だから言っているんですよ。

こういう考えを持っているけれども、現時点では僕の会社は全然多様性が足りないと自覚している。それはひょっとしたら僕らの「優秀な人材」という評価軸に修正が必要なのかもしれない。
宗教論争ではなく、一つ一つ現実的な議論をしながら、改善していきたい。

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