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自分の仕事をリストラする、あるいは変革プロジェクト向きの風土

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★自分の仕事を無くす
プロジェクトのキックオフで凄いセリフを聞いた。
「自分の仕事がこの会社からなくなる事を目指して、今、この場にいるのです」

ある部門の業務を効率化するプロジェクトである。場合によっては社外にアウトソースすることも視野に入れている。つまりこのプロジェクトがうまく行った場合、今までその人がしていた仕事はなくなり、その方は別な部署に異動する。

なかなかここまではっきり言えるものではない。
会社の論理としては、仕事が効率化されたり、より少ないコストで出来るようになった方が良いに決まっている。前向きに考えれば、「自分の仕事を改革することに自ら関われる」のはラッキーとも言える。
一方、社員の論理としてはそうでもない。それまでそのお仕事をずっとやってきて、知識も経験も自分の中に貯まっている。その仕事でみんなに一目おかれてきた。その「自分の仕事」が実は会社にとってはコア業務ではない事を認めるのはツライし、次の仕事で今のように能力を発揮できるかは未知数だ。
あっさり気持ちを切替えるには、よほどの「しがみつかないマインド」が必要なのではないだろうか。

★業務改革プロジェクトでもっともセンシティブな話題
もちろん、そうスッキリ割り切れないケースの方が多い。
「あなたがやっているその仕事、これからは全部システムが(or 別の誰かが)やるので、あなたの仕事はなくなります」というのは、通常とてもセンシティブな話である。
でもいつかは言わなければならないし、今その仕事をやっている人にも協力してもらわなければ、プロジェクトは成功しない。

本に書いた古河電工さんのプロジェクトでは、共著者の関さんが全国を巡って「プロジェクトがトータルとして何を目指しているのか」「なぜ今やる必要があるのか」を説明し、その上で「あなたの仕事はプロジェクト後にどうなるのか」「プロジェクト後にあなたには何をしてもらいたいと思っているのか」も説明した。
あのプロジェクトでは、担当業務の変更はお願いすることがあっても、お辞めいただくことはせずに済んだ。大変幸いなことに。だから理を尽くして説明した後は、皆さん、プロジェクトに120%の協力をしてくれた。

★変革プロジェクトに向いた風土、やりにくい風土
変革プロジェクトで削減対象となる業務の担当者が、自分の仕事を無くすことに最初から意欲的である場合も、そうではない場合もある。でも、その「しがみつかないマインド」の有無は改革の成功率に直結する。

しがみつかないマインドの強弱は個人差ももちろんあるのだが、組織としては、
・会社全体で意識している危機感の強さ
・改革慣れしているか。変化が当たり前だと思っているか
・雇用への安心感(今の仕事がなくなっても、なんらか雇ってくれる)
・自分達への自信
によって左右されるのだろう。
最近評判が悪い終身雇用だが、強みの一つはこの辺りにある。

コンサルタントという立場で変革プロジェクトに携わっていていつも感じるのは、「成否を分ける最後の肝は、お客様が握っている」と言うことだ。
これを認めるのは、プロとして悔しい。もちろんコンサルタントとして雇っていただいている以上、やれる事は山ほどあるし、ベストは尽くすが、どうにもならない部分も残る。
今日書いた「しがみつかないマインドが組織に浸透しているか?」というのはその、僕らではどうにもしにくいことの一例だと思う。

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