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あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

黒子として会議を仕切る術、あるいはスクライブ(板書)入門

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前回、ファシリテーションを会社で活用する上でのハードルについて書いた。今日はその続編として、ハードルを下げてチャレンジしやすくする方法について。

★つまり「ファシリテーターやります!」がツライ
そういうこと。他の人たちがこれまで何十年もやってきた会議のスタイルに異議を唱え、従ってもらうのが大変。
ワープロ使う、Web使う、といった新テクノロジーへの適用なら、まだ覚悟しているかもしれないけど、会議のやり方なんて、今更おまえに教わることなんてないよ、と思われている。だとしたら「ファシリテーターやります!」と宣言しないで、ファシリテーションする道を探ろう。

僕のお薦めはファシリテーター(司会?仕切り役?)は別の人に任せて、板書役に徹すること。
板書のことを僕らはスクライブと呼んでいるし、ファシリテーション協会には「ファシリテーション・グラフィック(ファシグラ)」と呼ぶ人が多い。
要はみんなで見ながら議論できるように、議論の内容をホワイトボードやフリップチャート(模造紙)に書いていくことだ。

これならば「僕がファシリテーターです」と宣言しなくてすむし、周りの人に無理に強力してもらわなくてもすむ。会議が始まったらすくっと立って、黙々とホワイトボードに書き付けていく。
(厳格すぎる会社だとこれだけでもハードルなのだが・・)

有効なことを書いていれば、みんな何となく見てくれる。これだけでも会議を良くする効果がある。そのうち「ほら、さっきこう言ったけどさ」と書いたことを指さしながら議論してくれる人が現れる。ちょっとだけ勇気をだして「さっきの話、ちょっと整理して書いてみたんですけど」と注目を集めれば完璧だ。

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ここに挙げた写真は、僕らのお客さま(ある大企業)で開かれた、僕らはタッチしていない会議の様子。図や絵を使ってキレイにまとめられている訳ではないが、大事なことがしっかり書いてある。
チャレンジした方の感想は、
「書くことでなかなか意見が出ました。うまくまとまった会議になりました。先日頂きましたアドバイス、大変ありがとうございました。」
というもの。
ちなみにアドバイスしたのは僕じゃなくて、僕らと一緒にプロジェクトをやったときに、スクライブのテクニックを盗んだ方(もちろん良い意味で)。その方はいまではすっかりエキスパートとして、社内で効率的な会議の普及をしている。

★話を全部書くのは無理
あなたもスクライブ(板書)してみてください、と初めての方にお願いすると、ほとんどは両極端な結果になる。全く書けないか、ひたすらだらだら書いてしまうか。

実際にやってみると分かるのだが「会議で誰かがしゃべったことを、そのままどんどん書き付ける」のは不可能だ。話すより書く方が遅いから、当然。
だからめっちゃ速く書こうとして頑張って書くか、要約してから書こうとしているうちに話についていけなくなって結局なにも書けないか、どちらかになってしまうのだ。

僕らプロのファシリテーターは慣れているので、要約しながら書き付けることができる。ヒアリングでは「あなた、こう言いましたよね?僕らが間違えて理解していませんよね?」を確認するためには必要なこと。
でも、ヒアリング以外の通常の会議ではあまり必要がないので、無理にチャレンジしなくても良いと思う。だらだら書いてあると、逆に誰も見なくなることも多いし。

★じゃあ、何をどう書くか?

①目的と議題
決まっているなら是非書いておこう。会議を仕切っている人が明示しない場合も多いが、推測して書いてあげよう。1つの議題が終わったら「これ、終わりましたよね」という意味でチェックを付けていこう(恥ずかしい人は黙ってチェックするだけでもOK)。

②今何を議論しているか?
これが一番大事。
議論をしていると、話はあっちこっちに飛ぶ。それを整理するのがファシリテーターの役割なのだが、今は頼りになるファシリテーターがいないケースの話をしているので、だれも整理してくれない。

スクライバー(板書担当)としてできることは、みんなの議論を注意深く聞き、議論テーマを書き付けること。例えば
「テーマA:関係会社と顧客コードを共通化するときの最大のハードルは何か?」
「テーマB:顧客コードと部品番号、どちらの共通化を優先すべきか?」
を大書しておく。書いておけば、議論している人たちは何となくそれを見るし、見れば、そこからはずれた頓珍漢なテーマで話し出す人が減る。

本当に会議が錯綜しているときは、2つ、3つの議論が入り乱れているから、それぞれ書いて「ちょっと皆さん待ってください。いまテーマAとB、二つがごちゃごちゃに話されてませんか?」とホワイトボードを指さしながら介入するといい。

③取りうる選択肢は何と何か?
これも議論で色々な意見が出たときの常套策。
活発な会議であれば、みんなからちょっとずつ違う意見が出て、収拾つかなくなる。そしたら、自分が拾えたものだけで良いから、
「A案:○○、B案:△△、C案:□□」
と書いてみる。必ず数字かアルファベットを振るのがポイント。

本当は4つの案があったとして全部聞き取れなかったとしても平気。3つまでなんとか書けば、誰かが補足してくれる。
「Aは論外だからBとCどちらが良いかに議論を絞ろう」とか
「イヤ、オレがいいたいのはBとCの間で」と言い出す人も出てくる。

④結論
議論の結論を書き、参加者に確認してもらう。
だれもスクライブしないしない会議を観察していると、さんざん討議して結論が出た気がするのに、参加者によって考えている結論はバラバラだった、ということがかなりの高確率で発生している。
結論を書かなくても共有できるほど、僕らのコミュニケーション能力って、高くないんですよね。

⑤ToDoとIssue
討議の中で出たToDo(すべきこと)やIssue(解決すべき課題)を、はっきりさせよう。専用のコーナーにリストアップしても良いし、赤丸で囲んでもいい。今日出たToDoとIssueはこれですね、と会議の最後に振り返りできるようになっていればOK。
これも、いちいち書かないと「これって俺がやらないといけないんだ」と言うことがなかなか伝わらないもの。

⑥表、マトリクス、絵
複雑な議論をさっと表や絵で表現でき、それを使って議論できるようになったら、一人前のファシリテーター(またはスーパースクライバー)。これについてのノウハウも数多くあり、本もいくつかでていますが、この記事でお話したいのは「いきなりこの辺を目指すのは大変。まずは上記の①~⑤にしておいたら?」ということ。

まとめ。
ファシリテーターに立候補しなくても、「書く」ことで生産的な会議を作ることはできる。まずは「今、何はなしている?」からチャレンジしよう。
今日はここまで。

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