給料の出所を知るには出来高制は効くが・・・
「「そもそもどうしてお金がもらえるのだろう」このように考えたことってありませんか?」朝の坂本さん
「「自分の給与はもらって当然」と思った瞬間から後退する」大木さん
こういう話題に反応してしまうのは、やはり私が説教臭いからなのでしょうか・・・?
当社の場合、「給料は会社からもらっている」と考えるメンバーはまずいないと思います。それは当社が出来高制を採用しているからです。なお、最初にお断りしておきますが、出来高制がすばらしいという話しを書くのではありませんので。。
私が新卒で現在の会社に入社した頃は出来高制ではなく、報奨金制でした。給料は年功序列的な感じで支給され、毎月の利益に応じて報奨金が追加され、さらにボーナスは業績に応じて支給される、という感じでした。ところが、社員、つまり私の先輩達は、
「こんなに頑張っているのに、給料が低い。」
「徹夜までしたりしているのに、ボーナスはこれだけか。」
「社長が独り占めしているんじゃないか?」
という不満ばかり口にしていました。リーダークラスの人まで含めてです。実際は、毎月報奨金まで支給していたので、毎月良くてトントン、むしろ足りないくらいで、ボーナス分は社長が自らアルバイターや社外の人を使いながら、別口で稼いで支給していたくらい苦労していたのです。
そこで、社長は、「今後は出来高制にする。計算方法も全て公開するから、昇給・ボーナスなども各事業部で計算し、私は承認するだけにする。」としたわけです。計算方法は途中で何度か微調整していますが、基本的にはわかりやすく言えば「3倍ルール」です。「自分たちの取り分の3倍を稼げ」という、どこの会社でも同じような基準です。半期ごとに計算し、それを超えた分の1/3はボーナスとして分配するという方式です。昇給も3倍ルールに収まるように各部で考えるように、となりました。
実際に自分たちで計算してみて唖然としました。それまでの稼ぎ方では全く3倍など届いていなかったのです。私もその時点で既に事業部を立ち上げていましたので、半期でマイナス4000万円!とかいう計算結果を見て唖然としたり、あるいはこんな事業では駄目だと考えたりしました(当時はCADシステムの開発販売を命じられていました)。CADシステムでは無理だと考え、自分たちのソフトウェア開発力を活かして受託開発中心に切り替え、孫請けあたりの状態からスタートしつつ、CADの特注品と受託開発を平行で進めたりしながら、ようやく3倍をはるかに超える稼ぎを実現し、3桁万円のボーナスをもらう権利ができたときには、計算結果の紙を見ながら持つ手の震えが収まらなかったくらいでした。それまでは親からも、「すなおに大手に就職すれば良かったのに・・・」と言われ続けていたくらい、ひどい待遇でしたから、親には実際に振り込まれるまで言えなかったくらいです。
この時代を一緒に乗り越えたメンバー達は、「給料は会社から」ではなく、「給料はお客様から」あるいは「社会貢献の対価」と数字からたたき込まれているわけです。その後入社したメンバー達にも、毎週のミーティングで、「荒利と目標額」を常にたたき込み、どうすればプラスにして高額なボーナスを獲得できるか、ということを考え続けたので、それこそ新入社員でも目標まで後いくら、と分かっている状態でした。
請負のソフトウェア開発の仕事でプラスにする方法は、
・高い仕事を請ける
・複数の仕事を並列で
・隙間を空けない
・トラブルを起こさない
という感じで、メンバーの品質・効率に対する意識は否応にも高まり、お客さんの評価も非常に高いものになりました。その後も大きなプラスをたたき出して全員3桁万円のボーナスを出したこともありますし、調子が悪くて全員ボーナスゼロになったこともありましたが、基本的にはプラスを続けてきました。当初は私は30歳そこそこの課長でしたが、プラスにできそうもない期末には、なんとかしなければと胃が痛くなったり、神に手を合わせたこともあったくらい、自分はもちろん、メンバー達の生活にも直結しているのです。
・・・ここまで書くと、「出来高制はすばらしいじゃないか!」と感じるかもしれませんが、出来高制には大きなマイナスポイントがあるのです。
・短期的な考えしかできなくなる
半期ごとに結果を出さなければならないので、先に向けた蓄積などがやりにくくなります。たとえば製品開発などのように、企画〜開発〜販促と、長い時間がかかるものにチャレンジしようという話題が出ても、「そんなことに時間を使ったら、今期分がプラスにできない」と反対されるようになります。
・出費を過剰に抑えたがる
荒利を増やすためには、収入を増やすか支出を減らすかですから、出費は非常に気になるようになります。良いことでもありますが、本来は効率を考えてマシンを1台買えば良いようなときに、「自分のボーナスが減るくらいなら我慢して・・・」となるのです。あるいは、お客さんとコミュニケーションがうまく行かないときにも、訪問して話し合えばすむことなのに、「出張費が・・・」となります。
・社内での連携にも影響が出る
事業部間での連携もぎくしゃくしたものになりやすいもので、会社全体としてこういう連携をしよう、と考えても、「それには今期分でこれだけのお金をこちらに回してもらえなければ引き受けられない」となったりします。
・メンバー同士もぎくしゃくすることも
人件費はソフトウェア開発ではもっとも大きな割合を占めますから、「あいつがいるからプラスにならない」「新入社員など要らない」という、短絡的な感情が生まれてしまうこともあります。
出来高制は、メンバーに「お金の出所」を理解させるには最高の方式なのですが、マイナス面も非常に大きいのです。当社ではこういう状況の中で、「下請けからの脱却」を行うべく、製品開発販売事業へのシフトをしましたが、一時期はメンバー間の対立がかなりピリピリしたものになりました。「目先の利益か、将来性か」「製品事業など博打ではないか」「受託でこの先儲けられるのか」と、激しい議論もありました。そのあたりをどうコントロールしたかはまた別の機会に・・・。
出来高制を10年以上続けてきましたが、そろそろ変える時期だと考えていて、リーダー達と検討中です。IT製品事業やゴルフ練習場向けシステム事業が本格的に立ち上がった現状で、目先の利益だけを考えて行動するのは合わないという判断です。すでに「お金の出所」を身をもって理解させる時期は過ぎ、リーダー達を中心にそのようなレベルは超えたと感じています。もちろん、目先の利益の方が短期的な経営は楽なのですが、それでは先ないと考えています。
出来高制の中で、メンバーから「新入社員にまで数字を考えさせるのか?」という意見も出た気がしますが、私はそれで良かったのだと思っています。給料は自分自身の仕事で稼ぎ出すもの、と理解すれば、適当な仕事はしなくなりますし、お客さんを大切にする気持ちも生まれます。新入社員は先輩に対して感謝・尊敬の心を持つようになりますし、先輩は新入社員を早く一人前にするように指導するようになります。社会の仕組みを知った上で、自分が何をすべきか考えるのが大切だと思います。極端な出来高制がお勧めとは思いませんが、あまりにも社員の待遇に対する不満がひどいときには良い薬にはなると思います。