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kintoneを使わない学生は卒業できないという調査結果をみて

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 週アスに大阪産業大学のデザイン工学部情報システム学科がkintoneをはじめとするグループウェアの活用と成果との因果関係を探った結果の記事「kintoneを使ってグループウェア導入の効果を研究してみたら」が載っている。なかなかに面白い結果になっているようなので、ちょっと考察してみたい。

 研究を行っている大阪産業大学の高橋・山田研究室では、kintone上でアプリ開発ができる権限を学生に持たせて、アプリの開発と改良を行わせているようだ。この記事の前に公開されていたこちらの記事によると、単にアプリの開発だけでなく研究日報の報告とフィードバック、さらにはスケジュール管理などもグループウェア上で行っているということで、さながら一つの会社組織のような運用形態になっている。これらの記事から、この小組織内におけるコミュニケーション基盤としてのグループウェアが果たしている役割についてちょっと分析する。

 ナレッジマネジメントにおける超有名なモデルに「SECIモデル」というものがある。ナレッジ(知識)を暗黙知と形式知の2つに分け、またナレッジ(知識)を扱う対象を個人と集団に分けてみると、実はものごとが創発されていく過程においてはナレッジ(知識)の転換や交換にいくつかのパターンの繰り返しが必要だというものだ。SECIモデルでは、個人の暗黙知を他人と交換できるようにする表出化のプロセスや表出化が終わった形式知を他人と交換する結合化のプロセスなど4つのプロセスが定義され、さらにこれらのプロセスを促進するための「場」が重要な役割を示すとされる。※「SECIモデル」についての詳しい説明はここでは省くので、この辺りを詳しく知りたい方はITmediaの情報システム用語辞典にも解説があるので別途参考にして欲しい。

 さて一般的にグループウェアという製品はこのSECIモデルの中では、形式知の交換や共有を支援する「システム場」の役割を担う。冒頭の大阪産業大学の高橋・山田研究室の記事内でも、書きかけの卒業論文などを登録して教員からの誤りの指摘や書き方のアドバイスなどのコメントを得るという使い方と他人の論文に付けられた先生のコメントが自分の論文を修正する手助けになるという効果が紹介されており、まさしく結合化が起きていることを示している。
 また同時に他人へのコメントから気づきを得ているわけで、これは内面化へのきっかけとなっている。高橋・山田研究室では日々の結果を研究日誌のようなものに書かせているそうだから、研究日誌を打ち込む都度に強制的に表出化も行われる。

 残るは暗黙知を参加者間で共有するための共同化のプロセスとそのための創発場ということになるが、高橋・山田研究室では多分これを記事にある週1回の経過発表会や飲み会で補っていると推測する。その発表会や飲み会のスケジュールもグループウェアに入れて、しかも通知機能をあえてオフにしてログインさせているとあるので、創発場への参加回数とkintoneへのログイン回数には相関関係がでているはずだ。

 SECIモデルでは、4種類のプロセスをそれぞれに適した場を生かして高速に繰り返し回せば回すほどナレッジ(知識)の質が上がるとされているので、kintoneを使うということはそれだけプロセスの繰り返し回数が増えるということになり、学生であれば当然それで成績や論文の質はあがるのだろう。逆にkintoneにログオンしないということは、こうしたプロセスや場に触れる回数が少ないことを示すので、だとするとそうした知識創発の機会喪失の多い学生がそうでない学生に比較して成績が低くて卒業できないというのもうなずける。

 ということで、「システム(グループウェア)を使えば時間と場所の制約を緩めて、他人との連絡や意見交換ができるので、いつでもどこでも勉強が出来たり効率的に研究が進むよ」という一言ですむような話も、モデルにあてはめて論じてみると学術的になるよ、という話。

 もちろんこのシステムの活用と成果との因果関係の研究というのは、グループウェア業界だけでなくIT業界全体にとって、非常に意義が高く今後も引き続き重要なテーマであることは間違いない。大阪産業大学の高橋・山田研究室には引き続きさらにいろいろなデータを集めて発表していってもらえることを期待している。

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