みんなの意見は案外正しい
わりと時間をかけて読んだこの本であるが、内容に様々な実験の結果が引用されていて非常に面白かった。
特に冒頭に紹介され、フランシス・ゴールトンの「市場での雄牛の体重あてクイズで787人が予想した結果の平均値は1197ポンドで正解の1198ポンドに非常に近かった」「スコーピオン号という潜水艦の沈没事故地点の予測で、専門家に聞きまわった予測地点は誰も正解しなかったが、その平均値は実際の沈没地点と200mしか離れていなかった」というジョン・クレーブンの話は非常に面白い。
私が過去に知っていたコラボレーションの実験の例では、「三人よれば文殊の知恵」というは嘘であるというものがある{lorge,solomonの研究}誤答をチェックするような場合を除いては人数が集まってもグループの創発能力の平均はグループ内の最も有名な個人を上回れないというこれまでの実験結果に対して、この本では「賢い判断を下せる賢い集団」を作れば、集団で創発的な回答を発見できることが紹介されている。
さてその「賢い判断を下せる賢い集団」の条件は、
1 意見の多様性(各人が独自の私的情報を持っている)
2 独立性(他者の考えに左右されない)
3 分散性(身近な情報に特化し、それを利用できる)
4 集約性(個々人の判断を集計して集団として1つの判断に集約するメカニズムの存在)
ということである。また「集合的な意思決定は合意形成といっしょくたに考えられることが多いが、集団の知恵を活用するうえで合意は本来的には必要ない」という一節もあった。要はディスカッションや合意を経ることなく多様な意見を集めることがポイントということになる。ただこれはちょっと現実の経営問題の場合などにそのまま使うのは難しそうではある。単純な投票式にできれば、アンケートシステムで実装できるかもしれないが・・・
いずれにしても、情報共有やナレッジマネジメントに興味のある方にはぜひ一度読んでおいていただきたい本である。
その他にこの本にあって私の印象に残った実験結果はこれ。
・模擬陪審の実験結果で、少数派の視点があるだけでグループの判断に微妙なニュアンスが生じより厳密な意思決定が行われることがわかった(カリフォルニア大学バークレー校チャーラン・ネメスの実験)
天邪鬼・皮肉屋にも一定の役割と効果が期待できるということか。なるほど、思い当たる節もある。