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「お客様にアジャイル開発を使ってもらうために、どう説得すればいいのでしょうか」という質問の???

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「お客様にアジャイル開発を使ってもらうためには、どのように説得すればいいのでしょうか。」

「お客様は、クラウドには消極的です。どういうトークを使えば、そんな意識を変えられるでしょうか。」

「DevOpsでコンテナやマイクロサービスが、もはや前提になることはよく分かりました。どうすれば、そのことを経営者に理解させることができるでしょうか。」

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ITの最新トレンドやビジネス戦略について講義をすると、決まってこのようなご質問をいただきます。講義を聴いて、なるほど、世の中はこんな方向に向かっているのだから、こういうものを使ってゆかなければいけないのだなと、思われたのだと思います。でも、ちょっと待ってください。これらの質問、ちょっとおかしくはありませんか。

まず、「何のために」が抜け落ちています。「こんなことに困っている」や「こういうことを実現したい」といった「何のために=目的」がはっきりしないままに、アジャイル開発やクラウド、DevOpsという手段を使わせたい、つまり、手段を使うことを目的にしている(手段の目的化)わけです。「自転車に乗れるようなりたいのですが、どうすればいいでしょう(でも、岩山の山頂に住んでいて、自転車を乗る場所もなければ、その機会も必要もない)。」というのと変わらない気がします。

確かに、新しいテクノロジーやメソドロジーに興味を持ち、使ってみたい、いろいろと確かめてみたいという好奇心は大切なことです。ならば、自分で、あるいは、自分のチームで使ってみる、実践してはどうでしょうか。言葉だけ知って、分かったつもりになるよりも、まずは実感し、経験を積み上げて、その善し悪しを体験的な知識として自分の言葉で語れるようになることが、説得力を増すには最善の策です。

それよりも何よりも、「何のために」を明確にしなければ、その手段が有効かどうかは分かりません。それができていないのに、言葉を弄して説明しても、相手の意識や行動を変えることはできません。

例えば、手続き型言語であるCOBOLで書かれたプログラムをメンテナンスしたいという目的では、アジャイル開発は使えないでしょう。そもそもアジャイル開発は、「プログラムを作ること」を目的に使える手段ではありません。「ビジネスを成功させること」を目的にした手段です。つまり、仕様書に書かれた通りにプログラムができあがったら完了ではなく、売上が、利益が、新規顧客数が、目標を超えることが、完了基準です。

クラウドは、使い方によっては、劇的なコスト削減や運用の柔軟性、スケールの弾力性を実現してくれますから、確かに魅力的です。でも、オンプレミスを移行するとなると、様々な手間やコストかがります。なにも中身が変わらず、使い勝手も変わらないのに、移行作業だけで膨大な手間やコストをかけ、新しい運用にも馴れなくてはなりません。それを行うことに価値があるでしょうか。ならば、既存のシステムを新しく作り変えるとき、新規のサービスを実現するときに使った方が合理的です。PaaSやサーバーレス、あるいはSaaSを組み合わせることで、これまでの何分の一、何十分の一の手間とコストで実現できるのですから、使わない手はありません。

DevOpsもその必要が無いのに、やることの意味があるのでしょうか。月に1回、あるいは、3ヶ月に1回しか、本番システムを変更しないのに、なぜ、DevOpsなのでしょうか。Amazonは、1時間に1000回の本番システムの変更を行っているそうです。そこまではいかないにしても、1日数回といった頻度でシステムの変更を行うならば、DevOpsに取り組む意味はあるでしょう。

「何を実現したいのか」「何を解決したいのか」をはっきりさせて、そのための最善の手段を選択することです。それが新しいのか、レガシーなのかは重要ではありません。ただし、これまでになかった「新しい」をインプットして、手段の選択肢を常に最新の状態にアップデートしておくことは必要だろうと思います。

DXもそうですが、流行言葉に囚われて、その本質、つまり目的や背景、思想をないがしろにしてはいけません。それが分かって、この手段は、いかなる目的には有効かが、わかります。

手段を目的化しないことです。何を実現したいのか、なにを解決したのか、そしてその先にある「あるべき姿」を想い描くことです。手段は、最善を選べばいいのです。

 参考:変革を求めるあなたは自分の変革に取り組んでいますか?

2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1

目次

  • 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
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