SIerの構造的危機に対処するための3つの要件
昨日のブログでは、SIerが抱える構造的危機とはなにかを書いたが、今日は、これにどう対処すべきかを考えてみた。
生産年齢人口の減少に伴う労働力不足は、これまでのSIerの収益構造が破堤することを示唆している。この事態に対処するためには、「顧客価値の拡大」、「品質と生産性の向上の両立」、「収穫逓増へのシフト」という3つの要件を満たす戦略を立て、施策を実施してゆく必要があるだろう。
一般に、ウォーターフォール型の開発では、早期に仕様を確定し、それに従ってコードを書き上げてゆく。しかし、このやり方は、使わないコードを大量に作ってしまうムダを生みだす危険性が高い。
Standish Groupが調査したレポートを見ると、「常に、またはしばしば使われる」コードは、全体の20%、それに対して、「ほとんど、または、全く使われない」コードは、64%もある。これは、早期に仕様確定しようとすると、ユーザーが、リスクを見越して何でも仕様に入れようとして、その結果、使われない機能が盛大に盛り込まれてしまうからだ。
SIerにとっては、これは何も悪いことではない。むしろ工数が増えることで収益の拡大が期待できる。しかし、これは決してお客様の利益ではない。この両者の利益相反という本質的な問題を解消することが、「顧客価値の拡大」だ。
そのためには、本当に使う機能だけを開発することだ。これには、ふたつの条件がある。ひとつは、短期間に実現すること。もうひとつは、変更要求に即応できること。
ビジネス環境の不確実性が高まり、ビジネス・スピード加速するなか、長期な先を見通すことは大変難しい。従って必要な時に必要な機能を即座に提供できれば、作り直しを求められることは少なくなる。また、要件の変更は前提と考えることが現実的だろう。そうなると、最初に決めたことを「全部作る」ウォーターフォール型のような開発では対応できない。結局は、「全部作らない」アジャイル開発は、前提と考えるべきではないだろうか。これについては、いろいろな取り組みが始まっている。詳しくは、以前のブログ「ポストSIビジネスのシナリオ: アジャイル型請負開発(1)〜(3)」で詳しく書いているので、ご覧頂きたい。
そもそもアジャイル開発が生まれるきっかけは、1986年に日本の経営学者である野中郁次郎氏と竹内弘高氏が、日本の製造業がなぜ高い生産性と効率を生みだしているのかを研究し、「The New Product Development Game」という論文をハーバード・ビジネスレビュー誌に掲載したことにある。それを読んだジェフ・サザーランド(Jeff Sutherland)氏らが「システム開発に適用できるのでは」と考え、1990年代半ばにアジャイル開発の方法論であるスクラムやXP(eXtreme Programing)としてまとめられた。それが再び日本に逆輸入されたのだ。だから、アジャイル開発には、伝統的な日本の「ものづくり」の考え方が埋め込まれている。
ものづくりの生産性と品質を製造の現場が改善活動を通じて実現するプラクティスをソフトウェア開発に適用しようという取り組みだ。これは、工数積算型では成り立たない。従って、請負やサブスクリプション(定額)といった収益モデルを模索すべきだろう。そうなると、生産性の向上を追求することが、結果として原価を下げて、利益拡大につながる。当然、品質が伴わなければ、お客様の満足は得られず、継続されることはない。そのリスクをせおいつつも、「良い仕事」を提供するために不断の改善による「品質と生産性の向上の両立」を目指す取り組みが必要となる。
この「顧客価値の拡大」と「品質と生産性の向上の両立」を受託開発にだけに適用する必要はない。むしろ、規模の経済が活かせるサービスの開発や運用に適用し、クラウドを活用して広くお客様に提供するビジネスの展開も考えられるだろう。これが、「収穫逓増へのシフト」である。
クラウドを活用した「収穫逓増」型のビジネスについては、以前投稿したこちらのブログをご覧頂きたい。ここでも述べたが、「システムをお客様に使わせるビジネスから、システムを自ら使うビジネスへの転換」である。
いずれにしろ、時代は、成果とスピードをこれまでになく求めるようになるだろう。そのとき、「工数がこれだけかかったので支払って欲しい」は、通用しない。如何にして、短期間に成果を提供し、このサイクルを高速に回してゆくか、あるいは、お客様の裾野をどうすれば劇的に増やしてゆくことができるかを追求しなければならない。アジャイル、クラウドなどは、そのための手段の一部として、真剣に向き合う価値はあるだろう。
もちろん、ここにあげたものにこだわる必要はない。他にも、様々なビジネスはある。ただ、そういうものをお金が回っている今のうちに取り組むことだ。どうせ人手不足である。お客様に人が足りないことの言い訳はいくらでも成り立つ。そんな時期にこそ、積極的な次への布石を打たなければ、そのときが来たとき、右往左往することになるだけだ。
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