SIerが直面するふたつの構造的危機
SIerは、今ふたつの構造的危機に直面している。ひとつは、「生産年齢人口減少の危機」、もうひとつは、「スキル塩漬けの危機」だ。
生産年齢人口減少の危機
「2010年には8000万人以上の生産年齢人口は、2030年に6700万人ほどになり、「生産年齢人口率」は63.8%(2010年)から58.1%(2030年)に下がる。つまり、人口の減少以上に、生産年齢人口が大幅に減るのである。(国内人口推移が、2030年の「働く」にどのような影響を及ぼすか)」
直近の5年間(2015〜2020)をみても、7682万人から7341万人、341万人の生産年齢人口が減少する。この数字は、同時期の総人口の減少が、250万人の減少であることを考えると、それを上回る勢いで、生産年齢人口の減少がすすむことになる。(参照:内閣府・平成25年版 高齢社会白書)。
この現実は、人を増やすことで、売上と利益を増やし、企業を成長させる「人数×単金×期間」の収益構造が、成り立たなくなることを示唆している。さらにこの事態に追い打ちをかけるであろうと心配しているのが、SIerにおけるエンジニアの満足度低下である。
3Kあるいは7Kと言われて久しいこの業界にあって、エンジニアは、長い労働時間への負担と将来への不安を感じているようだ。
「IT人材の7割以上が将来キャリアへの不安を持ち、特に新しい技術やスキルの習得、現在自ら持つ技術やスキルの普遍性について危惧している(IT人材白書2012)」
このような状況がつづくのであれば、生産年齢人口の減少以上に、この業界での人材不足が加速することが懸念される。
スキル塩漬けの危機
「2020年までIT需要は衰えない」
このような声を聞くことも少なくない。「みずほ」および「マイナンバー」の需要が減ってもオリンピックがあるからIT需要が減少することはないという見通しだ。私もこの論に反対するものではない。むしろ、IoT、モバイル、ビッグデータ等、新たなITの需要が今後とも長期継続的に拡大し続けるであろうと考えている。
しかし、ここで注意すべきは、需要の拡大と求められるスキルの乖離が、需要はあっても仕事ができない事態を招くのではないかと危惧している。
「みずほ」および「マイナンバー」に求められるスキルは、その手法もテクノロジーも、従来の延長でしかない。モバイルとWebアプリケーション、IoTとウェアラブル、ビッグデータとアナリティクス・AIは、今後大きな需要を創出すると考えられる。オリンピックの需要もこのようなテクノロジーを求められるのではないかと考えている。
つまり、「みずほ」および「マイナンバー」の特需は、その背後ですすむテクノロジーの急速な進歩に多くのエンジニアが関与するチャンスを奪い、スキルを従来のままに塩漬けにしてしまう危惧をはらんでいる。
そうなると、例え今の特需がなくなり、オリンピック需要に置き換わっていったとしても、その需要に応えることができないといった事態に陥るのではないか。このギャップを短期間に埋めることは容易なことではないだろう。
この構造的危機を見据えた取り組みが必要となるだろう。では、どうすれば良いのかは、次回整理してみようと思う。
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