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文学部出身のライターとして取材現場などで勝手に感じた文化の匂いをお届けしたい

仮想コミュニケーションというグリーンIT

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ライターとしての私の得意分野はITですが、たまにはIT以外の領域の仕事をすることがあります。そのひとつが“エコ”です。

先日手がけたテーマは仮想水、バーチャル・ウォータでした。地球の貴重な資源である水に焦点を当てた話で、食糧ができるまでには、私たちが思っている以上に多くの水が使われ、食糧を消費する国は、その分だけ水を輸入して使っているのと同じだという発想です。実際の水をその場で使っていないので、仮想水というわけです。

食糧の自給率が約60%しかない日本では、多くの食糧を輸入に頼っていますから、当然、仮想水をたくさん使っています。水というといくらでもあるのではと思われがちですが、実は地球上にある水のうち、地球上の生物が利用できる水の量は、水全体の0.08%にすぎないのだそうです。

その貴重な水によって作り出された食糧を、お金を使って輸入することで、日本は外国の水を消費していることになります。例えば、牛丼一杯を作るのに約2000リットルの仮想水が使われていて、日本人が使う仮想水の量は、1日一人当たり約1500リットルにもなるそうです。2リットルのペットボトル750本分ですから、驚きです。

一方で、年間約1,900万トンの残飯が捨てられています。これでは明らかに“エコ”とは言えませんね。私たちに出来ることは、食べ物を大切にすることと、水を無駄にしないことなのです。仮想水は、それを可視化して、一人ひとりの関心を高めるための指標だと言えます。

洞爺湖サミットを控え、“エコ”への関心が高まる中、IT業界でも“グリーンIT”が注目されています。私自身、“グリーンIT”に関する取材が多くなっています。しかし、今の“グリーンIT”の多くは、IT機器の省電力や熱冷却が話題の中心です。これはIT自身の“エコ”です。それはそれで結構なのですが、それでは家電と変わりません。もっとITらしい“エコ”があるはずです。

日本IBMでは、洞爺湖サミットの期間中、同社のシンボルカラーであるブルーのロゴをグリーンにすることで、“エコ”への取り組み姿勢を強調するようです。「低炭素社会」という言葉を持ち出して、“エコ”社会実現のための仕組みを提案するあたりが、コンセプチュアルなIBMらしいところです。富士通は、空気中にあるCO2を虫取り網で捕まえるコマーシャルで、イメージ戦略を展開しています。

各社のメッセージは様々ですが、そもそもITを使うこと自身が“エコ”なのです。時間的空間的概念を超えるITにはその力があります。テレビ会議を活用することで、出張のために移動がなくなり、電子メールを使うことで、紙も使わず、配達するための輸送活動もなくなります。役所への申請を電子申請にすれば、そのために人が移動する必要がありません。

こうしたITによる“エコ”の多くは、コミュニケーションの分野です。そこで、仮想水ならぬ、「仮想コミュニケーション」という指標を設けるというのはどうでしょうか。コミュニケーションにかかる活動をIT化することで、どれだけ地球資源の消費を防ぐことができたのか。そんな指標を作ることは、IT文化のメリットを可視化し、“エコ”を推進することにもつながるはずです。

実際に効果があるわけですから、CO2排出権取引のような代替活動よりも納得できると私は思うのですが。

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