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2015年のクラウドを振り返る

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2015年は、「クラウドファースト」から始まり、「クラウドネイティブ」、「クラウドノーマル」といったように、クラウドが本格的に浸透したキーワードを目にする年になりました。

その中でも、AWS、マイクロソフトのMicrosoft Azureに代表されるように、グローバル規模でハイバークラウド事業者が圧倒的にマーケットをリードした年でもありました。クラウド事業者はもうからないのではというアナリストなどの意見もありましたが、アマゾンが発表した決算発表では、AWSは黒字化しており、アマゾンの成長をけん引するとともに、収益性の高いサービスモデルとして認知された年でもありました。

調査会社のIDC は2014年12月に「IDC Reveals Cloud Predictions for 2015」を発表し、「IaaSプロバイダが提供するサービスの75%が、12カ月から24カ月以内に、再設計、再ブランド、あるいは廃止されていくだろう」と予測してたように、HPが2015年10月に、パブリッククラウドサービス「HP Helion Public Cloud」を2016年1月31日にサービス終了することを、今後のクラウドサービスの戦略転換を図る事業者もでてきた年でした。

2015年は、AWSがパブリッククラウドの市場をリードする一方で、事業者が提供するホステッドプライベートクラウドに代表されるプライベートクラウド市場への注目が高まった年でもありました。調査会社のIDC Japanの調査によると、2015年の国内パブリッククラウド市場(2015年8月発表)は2516億円で2019年は5404億円、2014年の国内プライベートクラウド市場(2015年9月発表)は6196億円で2019年の市場規模1兆8601億円になると予測しているように、パブリッククラウド市場よりもプライベートクラウド市場のほうが市場の規模が大きく成長率が高いという予測も出ています。

プライベートクラウドの市場規模や成長性が高い背景には、ユーザー企業のオンプレミスの基幹システムをクラウドへ移行する需要は大きいものの、パフォーマンスやライセンスなど個別要件への対応が多く、プライベートクラウドを選択するケースも多く出てきています。こういった背景を受け、各事業者は市場規模や成長性、収益率の高いプライベートクラウドを事業の柱とし、AWSなど他社のパブリッククラウドも併せ「適材適所」でクラウドを選択するハイブリッドクラウドの利用をユーザー企業に提案するケースも増加傾向になりました。各事業者は、AWSと正面から対抗するのではなく、AWSと共存したサービスやソリューションモデルを展開する動きも顕著となりました。

SoRとSoE、モード1とモード2、クラウドイネーブルとクラウドネイティブといったように、レガシー系システムとクラウドネイティブ系とクラウドの環境を使い分けをするためのキーワードも多く使われる年にもなりました。

そういった流れも受け、2015年は「ハイブリッドクラウド」というキーワードも大きく注目された年でもありました。

ハイブリッドクラウドを構成には、ネットワーク、クラウド管理ポータル、ミドルウェア、コンテナ、データなどのレイヤごとにさまざまな連携が進み、ハイブリッドクラウドを支援するサービスやソリューションも出てきました。エンタープライズ系の案件では、「AWS Direct Connect」や「Azure ExpressRoute」などによる、AWSやMicrosoft Azureなどのパブリッククラウドサービスと、ユーザー企業が利用するプライベートクラウドサービスなどとの専用線やVPN接続サービスも多く利用されるようになりました。

大手データセンター事業者のエクイニクスの傘下に入ったビットアイルが、AWS、Azure、SoftLayer、ニフティクラウドなど複数のパブリッククラウド事業者と、自社のクラウドサービスやデータセンターとを相互接続することが可能な「ビットアイルコネクト」を展開するといったように、自社のサービスにこだわらずハイブリッドクラウド関連のビジネスを強化していく動きもみられました。

複数のクラウドサービスを、ポータル画面のGUI環境からAPI経由で管理制御できる「RightScale」に代表されるクラウド管理プラットフォームも多く登場した年でもありました。 多くのクラウド管理プラットフォームは、AWSやAzure、VMware vSphere、OpenStackなどに対応しており、効率的に複数のクラウドサービスを管理する場合の選択肢の1つとなっています。各社がこれらのプラットフォームを提供することで、自社のソリューションやサービスに誘引していく動きも見られた年でした。

ユーザー企業のオンプレミスやプライベートクラウドサービスと、パブリッククラウドサービスとをつなぐ仮想サーバーの環境を、同一の環境で運用管理したいというニーズも多く出てきた年でした。ヴイエムウェアとソフトバンクが提供するパブリッククラウドサービス「vCloud Air」は、オンプレミスとパブリッククラウドとを同一のリソースプールで運用管理でき、双方向で仮想サーバーを移行することも容易に行えるといったメリットもあり、オンプレミスで利用している企業ユーザのニーズも高かった年でした。

OpenStackにも注目が集まった年にもなりました。2015年10月には、東京でOpenStack Summit Tokyoが開催され、世界中から多くの事業者や開発者などの関係者が集まりました。AwardがNTTグループが受賞するなど、日本の事業者の存在感を示すことができたイベントとなりました。

Dockerに代表されるコンテナ型仮想化ソフトウェアにも注目が集まりました。コンテナ上で構築したアプリケーションは、他のクラウドサービスのコンテナ上の環境への移植性が高く、作成されたコンテナをコピーすることで異なるクラウド環境でも稼働できます。エンタープライズ向けにヴイエムウェアが提供するPhoton OSは、これまでコンテナはセキュリティや信頼性が弱いところを補うOSとしても期待されているところです。

クラウドサービスは、「サーバレス」というキワードも注目されたように、より上位レイヤが主戦場になった年でもありました。AWS Lambda は、サーバーのプロビジョニングや管理なしでコードを実行することができるなど、プログラミングができる開発者がよりクラウドを活用できるようになり始めた年でもありました。

IoTが注目をされた年にもなり、IoTのプラットフォームをクラウドで提供するといった動きも顕著となった年でした。特に、AzureやAWS、Blumixなど、海外勢を中心にIoT向けのサービスが多く登場し、SORACOMに代表されるようにスタートアップ企業たちあがり、クラウドとIoTでエコシステムを形成する動きも出てきました。

また、AIやロボットへの注目度も高まり、Machine Leaningの機能をクラウドサービスとして提供する動きも見られました。IoTやAIなど、どれだけデータを押されられるか、データドリブンのサービスモデルもキーワードとなっていくでしょう。

AWSが市場を大きくリードするなか、ハイブリッドクラウドへの対応強化など、各事業者による生き残りをかけた競争が加熱した年でもありました。各事業者はサービスそのものの機能や優位性だけでなく、ハイブリッドクラウドに代表される他社サービスとの連携に力を入れてきています。クラウドサービスのコモディティ化や規模の経済(スケールメリット)が大きく左右する時代となり、各事業者は体力勝負が余儀なくされるとともに、戦略の先進性、事業の永続性、クラウドを含めたソリューションによる総合力などについて、さらなる差別化を図ることが求められるようになるでしょう。

クラウドサービスのマーケティング力、スタートアップや開発コミュニティとのリレーション、CIOなど意思決定者層へのアプローチ、グローバル展開、M&A、エバンジェリストへの発信力、人材育成、パートナーとのエコシステム、デジタルビジネスへの対応、上位レイヤ層へのサービス拡充、サービス品質改善、運用の自動化や効率化といったように、多くのテーマを抱え、市場の競争に生き残りをかけた戦いが益々加速していくことになるでしょう。

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