クラウドビジネスにおける事業投資と規模の経済とその先
クラウドビジネスの進展に伴い、サービス提供やデータセンターに投資を加速し、規模の経済を生かしたビジネスを展開する事業者に有利に立っています。
HPやIBM、Ciscoなどはクラウドのサービスの提供などやデータセンター拠点の展開にあたって、10億ドル規模の規模への投資を図っています。また、GoogleやMicrosoftなどもデータセンターへの投資に積極的に展開しています。そして、大規模な投資による規模の経済(スケールメリット)を活かし、サービス機能の充実や、大幅な価格の値下げを進めています。
各事業者は、それぞれの事業者のこれまでのコアビジネスの強みを活かしてクラウドビジネスを展開しています。たとえば、NTTコミュニケーションズは、通信事業者やアジア最大規模のデータセンターの敷地面積の強み、マイクロソフトはソフトウェアの強みを活かしてサービスを展開し、クラウドインテグレータなどが利用者に対してサービスやソリューションを提供しています。
2014年3月から4月にかけて、AWS、マイクロソフト、グーグル、そして、国内の事業者ではNTTコミュニケーションズが相次いでクラウドサービスの大幅な値下げを実施しましたが、通信サービスやハードウェアやソフトウェアなど、自社のコアコンピタンスと投資体力の余力がなければ、価格値下げへの対応と事業拡大に追随することは難しくなっていくと考えられます。
米IDCや米ガートナーなどの調査会社では、クラウド事業者は今後淘汰されていくと予測しています。
米調査会社 IDC
アジア・太平洋地区において、大手クラウド事業者の価格競争の激化などにより、小規模のクラウド事業者にとっては脅威となり、買収やサービス終了などにより淘汰され、市場の統合が進むと予測
出所: Major Cloud Service Providers Slash Prices; Threaten Smaller Players’ Existence: IDC Warns 2014.4
米調査会社 ガートナー
クラウドサービス事業者のトップ100の25%は合併吸収や倒産などにより、2015年までに淘汰される。クラウドサービス事業者の永続性をユーザー側が選択する必要性
出所:1 in 4 Cloud Providers Will Be Gone By 2015 2013.13
日経コンピュータ「独立系クラウド事業者、上場延期や身売り先探し相次ぐ(2014.6.5) 」の記事には、
米国のIaaS市場で2番手グループに位置する米ラックスペースホスティングが、投資銀行の米モルガンスタンレーをアドバイザーに雇い、自らの身売り先や合併相手を探し始めた。
とあるように、ラックスペース(Rackspace)のように世界でもトップクラスの事業者でも独立系クラウド事業者も苦境に立たされています。Rightscale社が2014年2月に公表した「State of Cloud 2014」ではRackspaceは、Running Apps(商用利用)で見ると、2位のシェアを確保しています。
RightSacale State of Cloud 2014
海外の記事「Rackspace Pops On M&A Signal; AT&T, HP, Cisco Loom」などでは、RackspaceのM&Aの候補として、AT&T、HP、EMC 、Cisco Systems、そして、IBM などがあがっています。Rackspaceが、これらの事業者にM&Aなどで統廃合されるようになれば、事業者の勢力図も大きく変わる可能性が考えられます。
国内の市場にも少し目を向けてみましょう。BCNの「SIerのDC事業 収益力低下の危機 規模の競争で不利に」の記事では、
SIerが所有するデータセンター(DC)の収益力が低下している。一つのDCを複数のSIerで共有したり、自前でDCを所有するのをやめて、DC専業事業者などから借りる動きが活発化。場合によってはAmazon Web Servicesをはじめとするパブリッククラウドを活用するケースも増えている。サーバーやパソコンといったハードウェア販売ではSIerの利益が出なくなって久しいが、DC事業もある種のハードウェア商材であって、規模の大きさによる優劣が出やすい特性がある。SIerはDCそのもので利益を稼ぐのではなく、DCを活用したサービスへ迅速にシフトしていく必要に迫られている。
とあるように、SIビジネスとしてデータセンターを展開するのには規模の経済で不利な立場にある点が指摘されています。
これまで、クラウドビジネスにおいて紹介してきたのは、以下の図で整理をした場合、主にクラウドサービスを提供する事業者、つまり「Cloud Provider」の位置づけにあたります。
今後、クラウドサービス事業者である「Cloud Provider」は規模の経済により、事業者の優劣による淘汰が始まると予想されます。
そして、クラウドサービス事業者による規模の経済を活かしたサービス提供能力に加え、それらを取り巻き、事業拡大を加速させるエンジンとなるクラウドインテグレータ(Cloud Integrrator)やクラウドサービスブローカー(Cloud Service Broker)などによるクラウドサービス事業者を中心としたエコシステムの形成力が今後のクラウドビジネスの勝敗を大きく左右することになると考えています。