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スマート・マシーン(2)実用化を進める自動運転車「Movers(移動する)」

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ガートナーでは、スマート・マシーンについて、代表的なものとして、「Movers(移動する)」「Sages(賢者)」「Doers(行動する)」の3つに分類しています。

「Movers(移動する)」

「Movers(移動する)」は、グーグルなどに代表される自律走行車、自動運転車やセルフドライブングカー、Boston Dynamicsが開発する「BigDog」、米軍が開発中の無人偵察機である「X-47B」などがあげられています。

2017年に実用化を進めるグーグルの自動運転車

グーグルでは、2010年ごろからサンフランシスコ市内など交通量の激しい市街地でも無人でテスト走行ができるようにまでなっています。グーグルでは常時100程度の研究開発プロジェクトが進められていますが、自動運転車は現実的なプロジェクトとして位置づけられているようです。

2017年までの実用化を視野に入れるとともに、自社で製造も検討を進めています。


グーグルの自立走行車
出所:http://wired.jp/2013/08/26/robo-taxis/

グーグルの自動運転車は、トヨタ自動車のプリウスやレクサスに改造を加えたものです。

自動運転車の車体の屋根の円形ボックスの中には、64個の赤外線レザーから構成される「ライダー(Lidar)」が取り付けられています。これにより、360度人間と人間、人間と横断歩道、人間と信号機、トラックとバン、荷物など別々の対象物として識別しています。

前方と後方にはレーダーが設置され、周辺の障害物の検知や前後車両との走行距離などを計測し、バックミラー付近に装備されたビデオ・カメラの障害物検知とともに前方の信号を識別することができます。そのほか、タイヤのホイールにつけられたセンサーは車体の細かい振動などを検知します。

各種センサーから取り込まれるデータを統合し、3Dマップが車載のコンピュータにリアルタイムで作成され、このデータを解析することで、進路選択や方向転換など自動車運転に必要な判断や決定作業を行っています。

この決定作業を支援するのが、センサーデータなどから自律的に学習する機械学習が可能なディープラーニングに代表されるニューラル・ネットワーク技術です。ニューラル・ネットワークが搭載された自動運転車が機械学習により、人間以上の運転能力を持てるようになるのも2020年には現実的なものとなるでしょう。

グーグルのベンチャーキャピタルでは、スマホ向けのタクシー予約サービスを提供するUber社に2億5,800万ドルを出資しているように、将来的には、自立走行車を商用化し、オンデマンドで乗客を目的地に案内する「ロボ・タクシー」の提供も視野にいれています。

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https://www.uber.com/

自動運転車の市場は、自動車メーカーだけでなく、様々な事業者が、自動運転車に関連するビジネスに参入する可能性が考えられます。

4足ロボットを開発するBigDog

BigDogは、Boston Dynamics社が開発を進める4足ロボットです。

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http://www.bostondynamics.com/

また、Boston Dynamics社は、米国防高等研究計画局(DARPA)の『Maximum Mobility and Manipulation』(M3)プログラムから資金を得て、最高時速16マイル(約26km)で走行可能な軍用の4足歩行ロボット「WildCat」の開発を進めています(関連記事)。

日本の自動車メーカーも

日本では、日産自動車が2020年までに自動運転車を商品化することを公表しています。商品化を発表したのは世界で初めてになります。

日産自動車は2013年8月28日、「日産自動車、自動運転の取り組みを発表」について、ニュースリリースしています。

・日産自動車は、2020年までに革新的な自動運転技術を複数車種に搭載する予定です。

・この計画に沿って、現在、初の自動運転車開発専用のテストコースを日本で建設中です。

・2020年以降、2回のモデルチェンジの中で、幅広いモデルラインナップに同技術を搭載することを目標としています。

・日産はマサチューセッツ工科大学(MIT)、スタンフォード大学、カーネギーメロン大学、オックスフォード大学、東京大学など*のトップレベルの大学と共同で研究を実施しています。また、その他にも世界有数の研究機関や新興企業などとの共同研究の拡大も目指しています。

・日産は、80年間に亘り築いた高い技術力やイノベーションを、自動運転車に向けたシャシーやデザインの革新に向けて活用して行きます。

日産は2013年8月にカリフォルニアで実施した「日産360」のイベントにて自動運転車の試作車を公開しています。

日産自動車では、公道を走るのに必要な法規制を整備した国から順次販売する計画をしています。車両に、音波や電波、光線を使うセンサー類や5つのカメラを搭載し、地図データと照合し道路の走行レーンや他の車、障害物、信号、標識などの周囲の状況を自動車が感知して内蔵の人工知能で解析することで、ドライバーがハンドルに触れなくても自動で走行し、アクセルやブレーキも自動で操作できます。

また、日産自動車は2013年9月26日、「日産自動車、自動運転システムの開発に向け、高度運転支援技術を搭載した車両のナンバーを取得」をリリースし、日本で初めて自動車検査証及びナンバープレートを取得したことを発表しています。

トヨタ自動車でも10月に、センサーで歩行者との距離を検知し、自動ブレーキや自動操舵で衝突回避を支援する技術「歩行者対応プリクラッシュセーフティシステム」の開発を発表しています。従来の歩行者対応自動ブレーキだけでは止まりきれない速度や飛び出し事故にも対応し、2015年以降の市場導入を計画しています(報道発表資料)。

新開発したPCSの作動イメージ
http://www2.toyota.co.jp/jp/news/13/10/nt13_058.html

自動運転車のメリットと課題

(メリット:交通事故の低減や渋滞緩和等)

アメリカのシンクタンクのレポートでは、自動運転車が10%まで普及すると、事故と負傷者を50%減らすことができ、90%まで普及すると、交通事故や路上での死傷者が90%削減し、アメリカ経済に毎年4500億ドル(約43兆円)もの経済的コスト削減が実現できるというリポートを出しています。

グーグルによると、2013年5月までに約50万マイル(80万キロ)のテスト走行を実施している中で、事故は2回だけとなっています。1回目はドライバーによる運転、2回目は赤信号で停止中に後続車による追突事故となっています。

自動運転により、交通の流れがスムーズになり、渋滞も緩和されると考えられます。国土交通省は、自動車メーカーと共同で、渋滞防止を狙ったシステムの試験走行を行なっています。また、新ネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、2013年2月に大型トラック3台と小型トラック1台による隊列走行デモを実施し、燃料の浪費の回避と二酸化炭素発生を最小限におさえています。燃費の改善や排出ガスの削減につながるなど環境配慮型の社会が期待されています。

自動運転により、飲酒運転や疲労などによる居眠り運転、人的ミス、スピード違反などの減少も期待されます。また、高齢者の方々や免許の無い方などにとっても、自動車運転者をタクシーのように使えることができるなど利用者の裾野は拡がっていくでしょう。

日本では高齢化が進み、高齢者が自主的に運転免許を返納するケースも増加しています。公共交通機関の減少が進む地方では、自動運転車の必要性は高まっていくと予想されます。

また、運転中や駐車の時間を、電話やメール、資料作成などの仕事などの時間の有効活用ができるようになるでしょう。

(デメリット:法制度の整備など)

現在、公道で運転者がハンドルから完全に手を離す行為を認められていません。あくまでも運転を支援する機能として位置づけられています。トヨタ自動車が首都高速で手放しの自動運転の実演したことが国土交通省や警察庁からも問題されたことが話題となりました(関連記事)。

主要国による自動運転関連の法整備が未整備で、現時点では、商品化できません。米国では、ネバダ州、フロリダ州、ハワイ州、カリフォルニア州などで公道での自動運転車のテスト運転は合法化されています。

同じ車線内で自動と手動の車両が共存する状況を想定した法整備を含めた環境整備をする必要性が指摘されています。日本では国土交通省が、高速道路に限り自動運転を段階的に認める方向で検討中していますが、一般公道で普及のはまだまだ時間を要すことが予想されます。

また、自動車メーカー各社は衝突回避システムなどのぶつからない自動運転自動車の開発を進めていますが、安全性の問題も指摘されています。自動運転によって事故が発生した場合の責任分界や保険制度などの整備も必要となるでしょう。

また、グーグルの「ライダー」だけでも7万ドルがかかるように、一般消費者が購入できる価格になるまでには、相当の時間を要すことになるでしょう。

日本では、心理的な側面も指摘されています。シスコが発表した自動運転車に関する意識調査「Configuring the Automatic Generation of CAR Reports and Alerts」によると、「自動運転車を利用したいか?」という問いに対して、ブラジルでは95%、中国では70%、米国では60%の人が「イエス」と答えたのに対して、日本人はわずか28%となっています。この意識の差が、今後の普及において、大きな障壁になる可能性があります。

自動運転に関わる利用イメージと定義

国土交通省は2013年8月28日、「第6回オートパイロットシステムに関する検討会」を開催し、「オートパイロットシステムの実現に向けて」中間とりまとめ(案)を公表しました。

自動運転に関しては、高速道路における高速域 渋滞時等の低速域における自動運 転や一般道路における自動運転が利用場面などをイメージしています。また、駐車場、工場等の敷地内における自動運転や専用道路、専用軌道等における
自動運転の利用場面なども想定しています。

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http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/autopilot/pdf/06/4.pdf

国土交通省では、自動車の運転への関与度合が高まった運転支援システムによる走行(下図②、③)と完全自動運転(下図④)を自動運転として定義しています。

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http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/autopilot/pdf/06/4.pdf

国内外の自動運転の取り組みを以下のようにまとめています。

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http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/autopilot/pdf/06/4.pdf

2020年の東京オリンピックが節目に

2020年に東京オリンピックが開催されます。それまでに、ガートナーが指摘する「Movers(移動する)」の自動運転車はすでに一部商用化され、オリンピックの運営支援において大きな役割を占めているのかもしれません。

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