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日本における「オープンガバメント」の歴史と概要

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IT戦略本部の「電子行政に関するタスクフォース」は2011年7月4日、「電子行政推進に関する基本方針に係る提言」を公表しました。本提言では、「オープンガバメント」が、本タスクフォースの重要な提言の一つとなっています。オープンガバメントとは、インターネットを活用し、透明でオープンな政府を実現するために行政情報の公開・提供と国民の政策決定への参加を促進する取り組みです。また、IT戦略本部の「電子行政推進に関する基本方針」にてその内容を決定しています。

オープンガバメントとは?

オープンガバメントは、特に米国のオバマ政権で、オープンガバメント政策を積極的に推進している。オバマ政権では、2009年1月に(1) 透明性、(2) 市民参加、(3)官民連携の3つの基本原則を表明しています。

・Transparancy(透明性)
政府は、国民に対する責任を果たすために、情報をオープンにし、提供しなければならない

・Participation(国民参加)
政府は、知見を広く国民に求め国民の対話を行い、利害関係者グループ外の人々に政策立案過程への参加を促さなければならない

・Collaboration(官民連携)
組織の枠を超えて政府間および官民連携し、イノベーションを促進しなければならない

米国におけるオープンガバメントの取り組み

オバマ政権では2009年5月、オープンガバメントの施策の第一弾として、政府や自治体などが保有する統計データの利活用の促進事業で、膨大で貴重なデータをオープンフォーマットやアプリケーション開発に利用できる形式で公開する「Data.Gov」を開設。民間企業では、これらの統計データなどを活用しサービスを提供するなど、データの「民主化」を推進しました。

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オバマ政権では、2009年12月には、オープンガバメント指令を発表。本指令では、各連邦機関に対して、行政の透明性を高める目的で、連邦機関が提供する統計データなどの価値の高いデータを誰でも入手できるようにすることや、オープンガバメントサイトを立ち上げるアクションプランを迅速に策定し発表することなどを求めてます。「米国民に向けたオープンガバメント進捗報告書」では、指令の3原則の定義のほか、「Recovery.gov」、「ITダッシュボード」、「USAspending.gov」、など、各イニシアチブが分野・目的別に紹介されています。

オープンガバメントを推進したのは2009年3月5日にオバマ大統領から任命されて、米連邦政府CIO 兼 行政予算管理局電子政府推進室長に就任したヴィベック・クンドラ氏(Vivek Kundra)です。クンドラ氏は米国の首都ワシントンD.C.のCTOを務めていた時に、市民に開かれた市とクラウドコンピューティングの導入を積極的に推進してきました。CIO.govの「クンドラ氏の偉業」から確認をすることができます。クンドラ氏は2012年1月16日、Salesforce.comの新興市場担当エグゼクティブバイスプレジデントに就任しています(関連記事)。

また、イギリスやオーストラリアやインドなど世界各地でオープンガバメントに関する取り組みが始まっています。

海外でのオープンガバメントの取り組みは2009年12月に経済産業省が調査した「海外におけるオープン・ガバメントの取り組み」で紹介されています。

 

日本におけるオープンガバメントの取り組み

日本では、IT戦略本部が2010年5月11日に公表した「新たな情報通信技術戦略」で、「オープンガバメント等の確立」を掲げている。また、2010年6月22日に公表した「新たな情報通信技術戦略工程表」では、オープンガバメント推進に向けて、2013年までに二次利用可能な形で行政情報を公開、原則全てインターネットで利用可能にするという目標を設定し、2011年7月4日に公表した「電子行政推進に関する基本方針に係る提言」でオープンガバメントの今後の方向性を示しています。

国民が必要とする行政情報を容易に利用できるように、統計情報、測定情報、防災情報等について2次利用が可能な標準的な形式での情報提供を推進。緊急時には、携帯端末向け情報提供やネットワークへの負荷が少ない形式での情報提供などをあげています。また、今回の震災での有効性や留意点を検証しつつ、ソーシャルメディアの効果的な活用方策について検討。そして、国民による政策の検証や政策形成過程への参加を可能とする観点からも、政策に係る各種情報の提供を推進する必要があるとしています。

今回の提言でポイントとなるのは、2次利用が可能な標準的な形式での情報提供、そして、ソーシャルメディアの効果的な活用方策を盛り込んだ点にあります。今回の震災を機に、オープンガバメントの動きは加速していえるでしょう。

地方自治情報センター(LASDEC)は2011年3月18日、全国の地方自治体に対して、国民に発信する重要情報のファイル形式について、CSVやHTMLで掲載するよう通知。内閣広報官は3月22日、各府省に対して、被災地での情報手段として、携帯電話の重要性が増すことから、携帯電話のホームページを用意するとともに、ホームページをHTML形式に変更するよう通知しました。その後、総務省が3月29日に各府省に、経済産業省が3月30日に社団法人日本経済団体連合会へ通知するなど、政府・自治体・経済界で、CSV、HTML形式での利用を推奨する動きが広がりを見せています。

政府のこれまでのオープンガバメントに関する取り組みの一例を紹介してみましょう。

経済産業省のオープンガバメントラボ

経済産業省は2010年7月29日、オープンガバメントの実現に向けての実証環境として「オープンガバメントラボ」を正式に開設しました(現在リニューアルのため準備中)。日本におけるオープンガバメントの実現を目指し、さまざまな実証を行っているサイトで、オープンガバメントに関するさまざまな情報の収集、提供も行っています。同時に意見募集サイト「アイデアボックス」、国内外のオープンガバメントに関する情報を集めた「オープンガバメント Wiki」、統計利活用サイト「データボックス」などを開設。ツイッターでは、ハッシュタグ「 #opengovjp」が用意され、オープンガバメントに関して、様々な意見交換がされています。

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オープンガバメントラボ 現在、リニューアル中

内閣府行政刷新会議の国民アイデアボックス

内閣府の行政刷新会議は2010年9月24日、経済産業省の「オープンガバメントラボ」環境を利用し、「国民の声アイデアボックス」を開設。2010年9月24日から10月14日までアイデアを受け付けています。

新成長戦略の実現に向けた規制・制度に関するアイデアを環境・エネルギーや健康、観光立国・地域活性化、科学・技術・情報通信など、8つのカテゴリに分けて募集を実施。ツイッター( @kokumin_koe)でもアカウントも開設し、意見を募集しています。国民アイデアボックスでは、すでに募集の受付は終了していますが、これまで約1,500のアイデアと9,000のコメント、20,500の投票が寄せられています。集まったアイデアなどについては、行政刷新会議の下に設けられている規制・制度改革に関する分科会等の議論にも活用しているといいいます。

文部科学省の政策創造エンジン 熟議カケアイ

文部科学省では、2010年4月17日、「文科省政策創造エンジン 熟議カケアイ」 を開設。「熟議」とは、多くの当事者による「熟慮」と「討議」を重ねながら政策を形成していくという考え方です。教育というテーマには多くの国民が関心を持ち、2011年4月28日に公表された「教育の情報化ビジョン」の策定にあたっては、様々な意見が書き込まれました。オフラインでの会合も積極的に開催されています。

行政機関における情報分析ツールガイドの公開

国民から集められた情報について、分析し政策に反映させる取り組みも始まっている。経済産業省は2011年4月11日、テキストマイニングなどの分析ツールを活用するための「行政機関における情報分析ツール活用ガイド」を公開。政府や自治体にはこれまで多くの意見や要望が寄せられてきており、情報の収集と分析には膨大な時間がかかっていました。今回、情報分析ツールを利用することで、これまでの声を効率的に収集・分析し、政策立案の高度化が期待できるとしています。

国民からの意見を収集・分析し、政策立案の高度化の実現していくためには、ネット上の意見を収集することが効率的であるとし、意見募集のサイトやソーシャルメディアからの情報の収集と分析、政策立案と政策の公開。そして、パブリックコメントやソーシャルメディアで課題や効果や評判などの検証などのフィードバックを収集し、政策への意見を反映するといったように、政策立案に向けた情報のライフサイクル管理の必要性があげられています。その結果、国民のニーズに応じて適切な政策立案や、行政機関の職員の業務の効率化、そして行政の透明化に結びつけることができるとしています。

意見の収集と分析の方法としては、文章を単語単位に分解してその関係性を自動で分析するテキストマイニング、様々な意見の構造化をするマインドマップなどをあげています。

これまでの活用例として、経済産業省のアイデアボックスや行政刷新会議の国民アイデアボックスや文部科学省の熟議カケアイ、そして災害時での取り組みが紹介されています。

国民の声アイデアボックスでは、投稿されたアイデアが膨大であったため、様々な観点から分析が行われました。テキストマイニングのほか、ポイントランキングでどんな意見が上位にきているかを分析し、自動文書分析で全体をマッピングし意見の全体像の把握、属性別の分析なども実施した。集められた情報を客観的に分析した結果を最終報告書でとりまとめるなど、政策検討に活用しているとのことです。

情報分析のツールの活用については、国民の意見を収集するだけでなく、政府が能動的に情報を分析することによって、政策への反映かつ業務の効率化に結びつけることができる。本情報分析ツールガイドの活用が、他の省庁や自治体などでの活用の広がりが期待されます。

国民運動「ネットアクション2011」

経済産業省は、2011年7月4日、内閣官房IT室、総務省、文部科学省他関係府省と連携し、インターネットを通じて民間の創意工夫を集めることで、東日本大震災からの復旧・復興につなげていく国民運動「ネットアクション2011」の呼び掛けを開始したことを発表しました(2012年1月下旬にリニューアル予定)。公共データを収集・公開し、民間企業がこれらのデータを活用し、震災からの復旧、復興や節電のためのアプリケーションやコンテンツの開発、創作の呼びかけを推進しています。

日本におけるオープンガバメントの取り組みは経済産業省の「経済産業省オープンガバメント推進サイト」や「オープンガバメントギャラリー」やから確認をすることができます。

 

今後のオープンガバメントの展開について

電子行政に関するタスクフォース」は2011年12月5日、事務局からの補足資料として以下の趣旨の内容を掲載しています。

【課題(経緯)】
「電子行政推進に関する基本方針」(平成23年8月3日IT戦略本部決定)を踏まえ、今年度は、東日本大震災で得られた教訓等や平常時における情報提供の際の現状・課題等を基に、緊急時さらには平常時の政府における情報提供の改善方策及び国民参加の在り方について検討する。

【検討事項(論点)】
○ 平常時における現状の行政情報提供方法の課題、及び緊急時に活用することも想定した、行政情報の効率的な管理・提供方法
○ 上記に加え、ソーシャルメディア等の新しいIT技術の活用方策
○ 国民の意見の収集と政策形成過程への参加に関するIT技術の活用方策 等

【アウトプット】
○ 現行の指針である電子的情報提供指針の改定等に向けての提言
○ (特に民間企業との連携における)ベストプラクティスの紹介 等

オープンガバメントの進め方のイメージとして以下の図が示されています。

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本イメージの中でポイントとなるのは、議論の論点ですが、

  • 東日本大震災を踏まえた対応
  • 新たな技術・仕組みへの対応(行政情報の2次利用等)
  • 国民の意見の収集と政策形成過程への参加
  • 情報提供に係る役割分担の明確化

などの例をあげています。

オープンガバメントの議論する項目として以下の7つをあげています。

①これまでのTF検討経緯などから、
②オープンガバメントの目的、今後のTFにおけるオープンガバメントの論点を整理する。
③議論のINPUTとして、現状の取組と課題、先進事例等を紹介する。
④目的実現のために、どのような方法を取ることが可能か、とるべきか等を議論する。
⑤議論の成果物として、オープンガバメント取組方針(仮称)に向けた提言を取りまとめる。
⑥先進事例をベストプラクティスとして共有
⑦課題の明確化により今後の議論の参考となる形として残す。

スケジュールついては、2012年5月にタスクフォース提言とりまとめをし、6月以降に「オープンガバメント取り組み方針(仮称)」を公表し、取り組み方針に基づき電子的提供指針に内容を盛り込み、改定をする計画となっています。

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総務省は2011年12月16日、「クラウドテストベッドコンソーシアム」の設立を発表しました。総務省の以外の他省庁所管の統計情報についても、同様にWeb API経由で提供できるよう、進めていく計画をたてていますが、API経由での統計情報の活用は、米国の「Data.gov」のように、オープンガバメントの取り組みの一つといえ、将来的には統計情報を活用した商用サービスの登場が期待されます。

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また、2012年1月31日に開催された「第19回 電子行政に関するタスクフォース」では、構成員より「オープンガバメントに関するTF提言構成案」が示されています。

日本のオープンガバメントはどこに向かうのか

日本におけるオープンガバメントは、様々な見地から検証が行われ、テストベッドの実施や、ベストプラクティスの情報収集を始めている段階です。

政府が推進するオープンガバメントがどこまで国民に浸透し、利活用され、民間サービスとの連携が図られるか。オープンガバメントが日本にも根付いていくかは「オープンガバメント取組方針(仮称)」が示される2012年が正念場の年といえるのかもしれません。

 

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