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ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

スーパーゼネコンとクラウド型データセンター

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日経新聞(7月10日)一面の記事に、富士通とマイクロソフトがクラウド事業を共同展開するという記事が掲載されていました。年内にも群馬県館林市の富士通のデータセンターでマイクロソフトと協業サービスを開始する予定とのことです。米国やシンガポールなどに広げる計画で、これらのデータセンターに、協業が必要な専用設備を配備していくようです。

マイクロソフトが富士通と協業する背景には、シカゴやアイルランドに巨大なデータセンターを建設し、クラウド事業の展開を急いでいるものの、アフターサービスなどの顧客サポートが手薄なため富士通の協力を得ること。また、富士通と組むことによって、グローバル展開する日系企業にも契約もしやすくなるとも判断しています。

また、両社で投資してデータセンターを増強することも検討しているようです。データセンターの建設には、一棟あたり数百億円かかるため、協同利用で投資効率を高める狙いがあるようです。

今回の富士通とマイクロソフトの提携は、IT業界に大きな影響を与えることになるでしょう。NECなどの大手ITベンダも、データセンターへの投資を強化することを明らかにしており、今後のデータセンタービジネスの行方が注目されます。

データセンタービジネスは、IT業界の動きだけにとどまりません。ゼネコンの動きや膨大な電力を消費するデータセンターの冷却や管理の方法も益々重要となってくるでしょう。

7月9日に、株式会社エーピーシー・ジャパンが主催する「APC by Schneider Electric SOLUTIONS FORUM 2010 ~エネルギー効率化を実現するデータセンターとは」に参加してきました。本フォーラムでは、早々と申し込みを締切られるなど、次世代のデータセンターのあり方が注目されていると言えるでしょう。私が参加したのは、APCの「冷却ソリューション」と「管理ソリューション」です。データセンターの冷却に関しては、これまで、部屋全体を冷却するのが、一般的でしたが、局所冷却で効率的に電力を使うことで、CO2削減やコスト削減へと結びつけることができます。

最後に参加したのは、パネルディスカッションの「ITとファシリティの融合~スーパーゼネコン4社をお迎えして高効率エネルギー社会の次世代データセンターを解明します~」です。東京大学の江崎先生がファシリテータで、大林組、鹿島建設、清水建設、竹中工務店のスーパーゼネコン4社のパネリストの方々が、高効率エネルギー社会の次世代データセンターについて議論するというものです。

会場は、約800名ぐらいと、非常に盛況でした。ライバル同士のゼネコンが議論するというのは大変注目が高かったのではないかと思います。本パネルディスカッションの模様は、私自身、ツイッターで中継をさせていただきました。その内容をご紹介したいと思います。

これからパネルディスカッション。東大の江崎先生がファシリテータで、大林組、鹿島建設、清水建設、竹中工務店のスーパーゼネコン4社のパネリストの方々が、高効率エネルギー社会の次世代データセンターについて議論

5年後のiDCとは。竹中の後神氏:都心型2層フロアデータセンタ(特許申請中)の話。鹿島の市川氏:日本は米国と比べると10年遅れ。クラウドが広がると都心型と地方型にニーズが分かれる。後神氏:日本の企業は都心のニーズが強く、日本独特のマーケット。次のクラウドの時代に向けて東京以外にも

清水建設の郷氏:モジュール型やユニット型のDCの重要性。迅速性や経済性。ITとファシリティの連携。鹿島の市川氏:ユニットでは最先端の技術をデマンドで対応する。郷氏:過去の反省は社会の変化に対応しきれなかった。江崎氏:ユニット型は10年先を見越したものなのですね。

大林の相沢氏:日本のPUEの平均は2.3。空調設備の省エネ対策が効果的。コールドアイル・ホットアイルが一般的。天井吹き出し方式のクールエアキャプチャで省エネ性を実現。局所空調。温度情報のデータが空調設備に受け渡しができればいい。

鹿島の市川氏:JDCCのファシリティースタンダードの策定。日本ではTier4はオーバスペックではないか。日本の実情にあった策定。DCの国際競争力。日本の商用電源の信頼性。日本の優れた耐震技術を考慮すると地震リスクの低さのアピールが可能。DCはハイエンドとローエンドで2極化へ。

鹿島の市川氏:マルチTierモジュールやUPSモジュールなどが今後のDC。

鹿島の市川氏:グーグルやマイクロソフトなどはだいたいTier2でつくっている。ひとつひとつのDCの信頼性は低いが、全体で信頼性を向上している。竹中の後神氏:ネットワークで相互にバックアップをとり、信頼性をあげたほうが環境に優しい。

清水の郷氏:クラウドが進んでいけば、DC間の連携が重要になる。後神氏:郊外のDCの建設になると通信インフラと電力インフラ供給がネックになる。

東大の江崎氏:建築、電力、情報の融合。DCはオープン化とモジュール化。ゼネコンだからできる。ユニット化が共通した話。ITによる効率化=ITとの融合。

困った規制。鹿島の石川氏:ジェネレータのの扱い。容積率の緩和。電気代を安くしてほしい。日本のDCが世界と戦えるようにバックアップしてほしい。清水の郷氏:都の環境条例への対応。

提案したいこと。竹中の後神氏:今のDCはITとゼネコンが一方通行。ITと建築といっしょに。清水の郷氏:PUEを下げるための外気の活用。鹿島の市川氏:日本に技術力のサービス精神を海外に広めて、海外に負けないように。ITとの協力関係。大林の相沢氏:温度情報と外気冷房。信頼性のある建物

東大の江崎先生:建築と電気とITは融合する時代へ。データセンター=”脳”。次の5年、10年を意識したDC設計のあり方。国際競争力のあるDCへ。

自分なりに議論のまとめをすると、未だに、東京都内のデータセンターのユーザニーズが高いものの、クラウド化が進めば、ハイエンドとローエンドのニーズが二極化し、郊外型のデータセンターのニーズが増えてくる。そのためには、電力コストの削減や通信インフラの整備、そして、ジェネレータや容積率などの規制の緩和、そして、中長期視点にたったユニット型のデータセンターが重要である。そして、これらを実現するためには、ITとゼネコンがもう少し歩み寄りをし、相互で効率的なデータセンターを考えていく必要がある。という感じでしょうか。

これまで、データセンターをお客様視点、ISPや通信の視点で見ることが多かったのですが、ゼネコンの方々の視点は、IT業界の人間とは少し異なる視点をお持ちですので、自分にとってはとても新鮮な議論にうつりました。

最後に先日、発表されたさくらインターネットの「石狩データセンター(仮称) 」ですが、

写真:全体図(最終8棟:合計4,000ラック)

設計施工は、APCのパネルディスカッションには参加をされていませんでしたが、大成建設という表記がされています。イメージ図にはありますが、大成建設が実際にどのようなデータセンターを建設されるのか、注目されます。

今後、クラウドの流れが急速に加速していければ、郊外型のデータセンターは増えてくるか可能性は十分に考えられるでしょう。一方、日経の7月8日の記事に、

IT、クラウド投資で資産巨大化。官民を挙げたクラウド推進の大合唱の前に、巨大な資産を抱えることになるIT会社の経営リスクはかすみがちだ。資金負担は増し、固定費の減価償却は増え、経営効率も悪化しかねない。大型データセンターが相次ぎ稼働する12年には供給過剰への不安視も。

という記事もあり、データセンターは選別(淘汰)される時代にもなる可能性も考えられるでしょう。データセンターは、中長期視点にたった建設が重要であり、ゼネコンの役割というのもこれから益々大きくなっていくのかもしれません。

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