日本上空での新たなスカイコンピューティング戦争
昨日(5月12日)、第1回クラウドコンピューティングEXPOに参加してきました。同時に10つの展示会が開催され、私自信も6つの展示会を回りましたが、クラウドコンピューティングEXPOが最も人の流れが多かったのではないかという印象です。特に、セールスフォース・ドットコムやマイクロソフトの外資系、そして、日系企業では、日立製作所やNECなどが多くの人で賑わっていました。第2回クラウドコンピューティングEXPOも秋(11月10日~12日)に予定されており、次回は、レイヤ別のカテゴリに分かれて、規模も大きくなるようですので、今からとても楽しみです。
5月12日の日経新聞の朝刊では、米セールスフォース・ドットコムが、マーク・ベニオフCEOが、2011年に東京都内にデータセンターを開設する予定で、近日中に場所を決定できる見込みと語っています。日本では、現時点で100億円弱の売上となっており、将来は1000億円規模まで引き上げる考えとのことです。東京都内にデータセンターを開設後、希望する企業のシステムを米国やシンガポールから東京に移せるようにするとのことです。
ZDNETのマーク・ベニオフCEOの記事によると、以下のようにコメントされています。
これからの10年がクラウドで大きな変化が起こる期間だとし、次世代クラウドにおいては特に日本が有利だと話す。その理由として、ネットワークの品質が非常に良いこと、他国に類を見ないほど高速モバイル通信が発展していることなどを挙げる。また、特に日本でグループウェアがよく使われていることから、「日本のビジネス文化に合っているのではないか」としている。
日本では、ブロードバンド、そして将来はLTEなどの高速モバイルブロードバンドのサービスの提供が予定されています。そして、総務省も2015年までに光によるブロードバンド100%を目指しており、ネットワークの高速性・信頼性などの充実度から見ると、世界的にも先行している部分が多いでしょう。
また、アマゾンは先日、シンガポールでのデータセンター稼動を開始し、日本のデータセンター経由でもサービスを開始するのではないかとうわさされています。
その他、グーグルやマイクロソフトなどの外資系クラウドベンダーとしての日本での本格的なデータセンター設置もこの先、十分に考えられるでしょう。
一方、政府も規模の経済(スケールメリット)によるクラウドコンピューティング市場の拡大などを想定し、「クラウド特区」の創設の検討を進めています。楠木氏が書かれた「総務省「クラウド特区」は成功するのか? 大規模データセンター誘致を巡る障壁」では、クラウドコンピューティングの誘致の可能性や障壁などについてまとめられています。
日本は電気代が高く、税制や規制などの問題もあり、なかなか外資系の事業者の誘致ができていないのが、現状です。特に、建築基準法や消防法の関係でコンテナ型データセンターを設置するのが、難しいというのもネックとなっています。4月上旬の日経新聞に、青森か北海道に10万台規模の大規模データセンターを誘致し、規制緩和や税制優遇を検討するという記事が一面に掲載されました。北海道や東北だけでなく、データセンター誘致に積極的に参戦する自治体も増えてくるかもしれません。
「クラウド特区」では、新たな外資系事業者や、日系企業、そして、「霞が関クラウド」や「自治体クラウド」といった公共分野での利用など、様々な可能性が考えられます。
以上のように、外資系の国内データセンター参入や、政策による「クラウド特区」によって、既存の日系IT企業の戦略にも影響を及ぼすことになるでしょう。特に、日本のITの場合は、国内にデータがあり、安全性が高いことや遅延が少ないことなどをメリットにしていましたが、外資系事業者の国内データセンター参入によって、そのアドバンテージは少なくなります。クラウドの導入事例も増え、国内でデータセンター設置する事業者も増えれば、心理的な面においては、ずいぶんハードルが低くなるでしょう。
クラウドコンピューティングは”場所を意識せず”、というのが一つのキーワードでしたが、日本という限られた上空で、新たなスカイコンピューティング戦争が勃発しそうな予感がしています。