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スマート・クラウド戦略(4) 海外のガバメントクラウド(米国)

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総務省が2月10日に公表した「スマート・クラウド研究会中間取りまとめ(案)」では、研究会報告書の中では特に言及されていませんが、参考資料(別紙4)の中では、米国や英国といった海外のクラウド関連の政策の事例も紹介されています。まず、米国連邦政府の事例を紹介しましょう。

米国NISTにおけるクラウド定義では、定義や主要要素、デリバリーモデル、サービスモデルなどが紹介されています。ちなみに、米NISTで定義しているクラウドコンピューティングの5つの特性は、

  • オンデマンドのセルフサービス
  • ユビキタスなネットワークアクセス
  • ロケーションに依存しないリソースプール
  • 迅速な拡張性
  • 従量制サービス

です。

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また、連邦調達庁のGSA(General Service Administration)では、2009年5月に、NISTが発表した定義を踏まえて、クラウドベンダーに対してRFI(Request for Information)を出し、クラウドの導入を検討を始めました。8月3日には、RFQ(Request for Quotation)を発表し、SLAでは99.95%のAvailabilityが確保されなければならないなどのルールが盛り込まれており、連邦政府のクラウドコンピューティングの枠組み(Federal Cloud Computing Framework)も示されています。

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米国連邦政府のクラウドコンピューティングのフレームワークとなるのが以下の図です。

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主なクラウドサービスには、既に一般的になっていますが、SaaS(Software as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、IassS(Infrastructure as a Service)があげられています。また、クラウドサービスデリバリーにおいては、セキュリティやデータの保護、それからデータセンターの設備などについて記載されています。また、クラウドユーザツールもうまくまとめられています。

なお、米国連邦政府のクラウドコンピューティングの取り組み概要については、以下の図がまとまっています。

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2009年3月5日にオバマ大統領から任命されて、ヴィベック・クンドラ氏(Vivek Kundra)が米連邦政府CIO 兼 行政予算管理局電子政府推進室長に就任しました。オバマ氏は、実績があり、かつ30歳代の若手を起用することで、「Change」を印象づけています。クンドラ氏は、クラウド推進論者として「Mr. Goverment2.0」として期待されています。

クンドラ氏の経歴を簡単に紹介しましょう。クンドラ氏が米国の首都ワシントンD.C.のCTOを務めていた時に、市民に開かれた市とクラウドコンピューティングの導入を積極的に推進しています。

「D.C.Data Catalog」プロジェクトや「Apps for Democracy」(民主化のためのアプリ)というコンテストによる情報公開と市民参加を促しました。そして、Google Appsの導入やオープンソースを導入する等、市の情報関連予算のコストを大幅に削減し、民間企業のコスト削減の手法を大胆に地方自治行政に持ち込んだ手腕は高く評価されています。

参考ですが、クンドラ氏は、2008年ITエグゼクティブイヤー、世界のベストCTO25(米InfoWorld誌)の1人に選ばれています。

オバマ政権は開かれた政府(オープンガバメント)を目指し、国民の意見を積極的に取り入れていくことを目標とし、2009年5月21日には、「オーブンガバメントイニシアティブ(Federal Cloud Computhing Initiative)」を発表しています。米国のオープンガバメントには以下の3原則があります。   

  • Transparancy(透明性) ・・政府は、国民に対する責任を果たすために、情報をオープンにし、提供しなければならない
  • Participation(国民参加)・・政府は、知見を広く国民に求め国民の対話を行い、利害関係者グループ外の人々に政策立案過程への参加を促さなければならない
  • Collaboration(官民連携) ・・組織の枠を超えて政府間および官民連携し、イノベーションを促進しなかえればならない

オープンガバメント政策に基づいて、クンドラ氏が、連邦政府のCIOに就任してから始めに手がけたプロジェクトは「Data.Gov」のサイトの創設 (2009.5.21開設)です。「Data.Gov」とは、政府保有データの利用活用の促進事業で、連邦政府が保有する膨大で貴重なデータをオープンフォーマットやアプリケーション開発に利用できる形式で公開することによって、データの「民主化」を推進しています。データの「民主化」は、オープンでアクセスしやすい環境を提供し、政府が保有するデータの民間活用を促し、政府の透明性を高めています。

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2010年の2月1日現在では、既に17万点のデータが掲載されています。「Data.Gov」に掲載されているデータ系列数は、商務省が経済指標などを扱っているため多くの比率を占めています。商務省に続くのが、空港宇宙局、環境保護庁などです

また、クラウドコンピューティングイニシアティブ(Cloud Computing Initiative)にて、サービス提供を通じて、インフラ、情報、ソリューションを政府横断的に共有するためのイニシアティブを進めています。

具体的な取り組み例としては、米国連邦政府のウェブポータルを2009年5月にクラウドコンピューティングの環境へ移行を開始し、9月に完了しています。また、Terremark社が提供するIaaS(Infrastructure as a Service)を採用し、90%のコスト削減と需要にあわせた柔軟なインフラ環境の実現を整備しています。Terremark社は今後のガバメントクラウドの市場成長をターゲットとし、政府の基準に対応できる大型クラウドデータセンターをバージニア州カルペパーに建設しています。

そして、「Apps.gov」です。米連邦政府は2009年9月15日に、クラウドベースのITサービスを提供する連邦省庁向けウェブサイト「Apps.gov」を開設しています。(発表資料

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総務省の別紙資料には以下の開設が書かれています。これからのサービスにはセールスフォース・ドットコムやグーグルのサービスなどの民間のサービスの多くが含まれています。

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「Apps.gov」の提供によって実現するのが、ワンストップサービスです。連邦調達庁のGSA(General Service Administration)は、サービス事業者と調達契約を結び、提供可能なサービスを「Apps.gov」に掲載し、調達の一元化をはかっています。

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米国連邦政府では、連邦政府のサービス調達の窓口となる連邦調達庁のGSA(General Service Administration)と予算執行や各行政機関の予算調整を行う行政管理予算局のOMB(Office of Management and Budget)の二つが連携をしながら対応を進めています。

本中間とりまとめの中では、米国の事例などを参考にしつつ、クラウドサービス調達のための指針について検討すべきであるとしています。

最後に米国連邦シフのクラウドの導入スケジュールですが、以下のとおりです。

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既にフェーズ3の段階に入ろうとしており、2010年の3月~6月の時期に、業務用アプリケーションやインテグレーションサービスなどのアプリケーションを導入し、提供クラウドモデルには「ハイブリッドクラウド」というキーワードも入ってきています。

総務省のスマート・クラウド戦略の中間報告書の中では、電子行政クラウドの部分においては、「霞が関クラウド」や「自治体クラウド」に代表されるように、政府や自治体の共通プラットフォームを構築し、国の行政管理費用の2割程度のコスト削減を目指しています。自民党時代の当時の総務大臣の「ICT鳩山プラン(2009年3月公表)」の資料の中では、霞が関クラウドを2015年までに実現するとしており、自治体クラウドはそれ以上かかるということを考えると、中長期の取り組みとなっています。

参考ですが、政府全体の中では、国民の意見を広く募集する「ハトミミ.com」が開設されており、2月23日からは経済産業省では、「経済産業省 アイデアボックス」が正式にオープンする予定です。日本でも、オープンガバメントやクラウドの動きが徐々に始まりつつあります。

米国では、政府CIOの就任から、NISTでの定義、オープンガバメント、そしてクラウドコンピューティングイニシアティブなど積極的にクラウドコンピューティングを推進し、既に大半が計画から実行に移していることがわかります。日本においてもこれらの取り組みにおいて、参考になる部分は多く、「オープンガバメントクラウド」の実現に向けた政府横断的な積極的な推進が期待されるところです。

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