習慣になっていないから「なぜ」と問う
先日のセミナーで私の心の琴線に触れた言葉を紹介したい。
部下から「なぜ?」という質問をされるとたいていの上司はそれに答える。
それが上司の当然の務めでもあり、自分が若かりし頃、「四の五の言わずにやれ!」と理不尽なことを言われた経験のせいもあるだろう。ロジカルに説得するのは上司の役目であることに間違いはない。
しかし、この「なぜ?」は曲者である。
子供の「なぜ?」は純粋な疑問や興味から来ていることが多いが、大人の「なぜ?」はともすれば、したくない理由を探すためのものだからである。
例えば、「なぜ顧客を100件も訪問しなければいけないのですか?」という営業の質問に対して、私などは、ロジカルに説明するという衝動にかられてしまう。
「君が達成すべき売上は○○○円で現在の受注残は○○○円、引き合いの件数が○○○でこの50%が受注できたとして・・・だからあと顧客を100件回って、引き合いの数をもう○○件に増やしたいんだよ」というように。
しかしながら、この質問をするにモードに入っている営業に対して、どんなにロジカルに説得しても次の質問や言い訳が待っているだけだ。
「いいですよ、100件訪問しろというのなら出来ますよ。でもただ回ったって効果がないと思いますよ。なぜ効果があるって思うんですか?」
「交通費だってかかるし時間の無駄ですよ。お客さんだって僕が頻繁に行ったら迷惑ですよ」
というように。だって、100件訪問する気がないので、「なぜ?」と質問し、その回答には効果がない=>やらなくてよいという魂胆だからだ。
それでは、こういう「なぜ?」を聞かれた時に、上司はどう答えればよいのだろうか?
セミナーでは「わかった。じゃぁ、まずやってみようか!」と言いましょうと提案された。
ロジカルに説明すればアリジゴクなので、「相手の質問に答えない」という手を使い、まずやらせてみる(=昔の上司の四の五の言わずやれ!)のだ。
「習慣になっていないから、「なぜ」と問うんです。歯磨きと同じで、習慣になっている人はなぜなんて言いません」
なるほど。
私の言葉で言い換えると、このようなケースで営業が「なぜ?」と問うときは、怠け者でやりたくないというよりは、100件訪問するという新しい世界に飛び込むハードルがとても高いという悲鳴なのだ。
人間誰しも、新しいことや好きでない事を始めるには精神的なハードルが非常に高い。
そしてハードルというのは得てして飛ぶ前は高く、飛んでしまえば意外に低くかったことに気が付く。
昔は四の五の言うなという上司の強制力でそのハードルを下げた。(から、幸せだったこともある)しかし前述したよう、今やこの手法を使える人は少ない。
今風にこのハードルを下げるのなら、「一緒にやってハードルが低いことを理解させる」「ハードルを小分けにしてひとつの山を低くさせる」という手法だろう。
つまり「それじゃ、最初の10件は僕と一緒に回ろうよ」と誘ったり、「じゃ、今日だけ5件回ってくれない?」」と言って明日もまた同じ事を言うとか。
もっとも生真面目な日本人は、物事を習慣化させることの重要性を理解しており、だからこそ勝間和代さんが唱えるような、小さな努力を苦なくこつこつ続ける手法がもてはやされるのだと思う。
私のケースで言えば、「毎日腹筋30回やろう」が精神的にものすごくハードルが高いので、お尻を叩いてくれる人がほしいです・・・・