オルタナティブ・ブログ > Mostly Harmless >

IT技術についてのトレンドや、ベンダーの戦略についての考察などを書いていきます。

Microsoftもプロセッサの自社開発へ ~しかし、狙いはAppleとは少し違う

»

先週末、MicrosoftがArmベースのCPUを自社設計しているというニュースが飛び込んできました。

マイクロソフト、半導体を自社設計へ サーバーやPCに=関係筋

一瞬、これはApple Siliconへの対抗なのだろうなあ、と思ったのですが、どうも、そうでは無さそうです。記事のタイトルに「サーバー向け」とあるからです。こちらの記事はもう少し詳しいですが、

MicrosoftがArmベースのチップを自社設計との報道

「まずは自社のデータセンター向けに投入し、次いでSurfaceシリーズ向けにも別のチップを採用することが検討されている」ということですので、AppleのM1とは違い、データセンター向けが想定されているようです。となると影響を受けるのはIntelで、この記事からリンクされているBloombergの記事では、この報道(18日)後にIntelの株価が4.6%下落し、$47.46で取引を終えたということです。21日にはさらに下落し、$45.40まで下がりました。Apple M1の時には2.9%下落したと伝えられていますが、今回はより影響が大きかったということです。そもそもIntelの株価は10月の四半期決算後にも10%下げており、弱り目に祟り目と言ったところでしょうか。

computer_data_center.pngMicrosoftとAppleの違い

最初はデータセンター向け、という方針は、現在のMicrosoftが置かれている状況を如実に表わしているのではないでしょうか。MicrosoftのライバルはAppleではなく、AmazonやGoogleなどのクラウド事業者なのだということでしょう。Microsoftは元々ハードウェアメーカーではありませんし、自社ハードウェアはSurfaceとXboxくらいしかありません。ハードウェアメーカーであるAppleとは自ずと戦略が違ってきます。

Microsoftは、実はずいぶん早くからCPU自作への取り組みは行っていました。Armベースのプロセッサを独自開発できるライセンスを取得したのは2010年です。

マイクロソフト、ARMアーキテクチャの使用権を取得--独自プロセッサを開発か - CNET Japan

こちらの記事には、Microsoftが「x86ともArmとも違う」プロセッサを2010年から開発している、と書かれています。

What is so interesting about Microsoft's new E2 processor?

Appleが自社CPU開発のためにP.A. Semiを買収したのが2008年、初めての自社チップであるA4を出荷したのが2010年ですから、そのあたりに触発されたのかも知れませんね。

ただ、MicrosoftはAppleのように半導体設計会社を買収するのではなく、その後はパートナーとの共同開発という道をとったようです。E2の記事にもありますが、当初からQualcommとのパートナーシップの元で開発が進められたようですね。

そして、昨年末にQualcommと共同開発した「SQ1」を搭載したSurfaceを発表しました。

Microsoftが満を持してリリースした「Surface Pro X」はARMアーキテクチャへのリベンジを果たせたのか実際に触るとわかってきた

しかし、SQ1はM1と違ってパフォーマンスもそれほど話題に上らなかった上に、WindowsをArmに移植したWoA(Windows on Arm)のパフォーマンス自体も驚くべきものではなかったようです。これは今回Rosetta2のパフォーマンスの高さが周囲を驚かせている中で、対照的です。

今回、これから開発するプロセッサは「自社開発」と報道されています。共同開発ではないとすると、Microsoftの戦略が大きく転換したことを示しています。

データセンター向けArmの今後

クラウドサービスへの需要は高まる一方で、データセンターでのサーバーの実装密度は限界にまで高まっています。そこで問題となっているのが消費電力であり、それにより発生する熱、それを冷却するためにまた電力が必要となるという悪循環です。消費電力が低く発熱も小さいArmアーキテクチャは現在データセンターが抱える発熱・冷却問題を解決できる可能性を秘めています。

今年9月、NvidiaがArmを買収すると発表しました。NvidiaはGPUの開発を行っていた企業ですが、昨今のAIブームで、データセンターで大量のGPUを稼働させて機械学習を行わせるという用途で業績を伸ばしています。Arm買収は今後Nvidiaがデータセンター事業を拡大するための布石とも見られています。Amazonも、自社のデータセンター向けにArmベースのプロセッサを自社開発しています。

今回、Apple M1でArmアーキテクチャには省電力性能だけでなく高速性能も期待できることがわかり、データセンター向けArmの可能性は拡大していくものと考えられます。

 

「?」をそのままにしておかないために

figure_question.png時代の変化は速く、特にITの分野での技術革新、環境変化は激しく、時代のトレンドに取り残されることは企業にとって大きなリスクとなります。しかし、一歩引いて様々な技術革新を見ていくと、「まったく未知の技術」など、そうそうありません。ほとんどの技術は過去の技術の延長線上にあり、異分野の技術と組み合わせることで新しい技術となっていることが多いのです。

アプライド・マーケティングでは、ITの技術トレンドを技術間の関係性と歴史の視点から俯瞰し、技術の本質を理解し、これからのトレンドを予測するためのセミナーや勉強会を開催しています。是非、お気軽にお問い合わせ下さい。

「講演依頼.com」の「2018年上半期 講演依頼ランキング」で、3位にランクされました!

Comment(0)