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IT技術についてのトレンドや、ベンダーの戦略についての考察などを書いていきます。

IT人材の移動が始まった ~DX推進の起爆剤となるか?

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国内のIT(情報技術)サービス大手のリストラが続いているということです。

IT大手、リストラ続く 富士通やNEC、「GAFA」に後手

有料記事なので読めない方もおられると思いますが、日本のITベンダーはクラウドへの取り組みの遅れでGAFAに先手を取られ、リストラを余儀なくされているという記事です。しかし私が注目したのは、最後の部分でした。

さらに足元では新たな問題が浮上。自動運転技術に取り組む自動車やネット業界などの顧客企業が自社でIT人材を抱え込むようになっている。経済産業省の調査によると先端IT人材は20年に約5万人不足する。LINEは人工知能(AI)の技術者を年収1000万~2000万円程度で処遇するなど、人材争奪戦が激しくなっている。

SIerが人員を削減し、ユーザー企業がIT人材を抱え込む。これは、これからはシステム構築の主役がITベンダーからユーザー企業へ移行していくということを示しているのかもしれません。単にリストラであぶれた人材の受け皿になっているということではなく、日本社会のIT化を支えてきた「SIerがユーザー企業の面倒を見る」体制が変わりつつあるということなのではないでしょうか。

business_jinzai_hikinuki.png日本ではSIerにIT人材が偏在

そもそも、日本ではIT人材の75%がSIerなどのITベンダに所属しており、ITベンダがユーザー企業のシステム構築・運用を請け負うという構図になっています。しかし米国ではIT人材の72%がユーザー企業に所属し、自社システムの構築・運用を行っていると言うことですので、構造が真逆と言って良い状況にあります。

日米ITビジネスとの違いから考える、今後のIT人材育成の課題と期待

そしてこの構図が、「業務の自動化と丸投げ」「人月での受託開発」「SE単価の低迷」に繋がっているとしています。日経コンピュータの木村さんなどは、こういった構図を批判する急先鋒ですが、一方でこのように長く続いている仕組みにはそれなりの良い点も必ずあります。ITの素人が多い中小企業などがシステムを導入して運用してこられたのは、こういったSIerの存在が寄与していることもまた事実でしょう。

SIerは基幹系エンジニアも削減

しかし、事態はそんなことを言っていられないほどに差し迫っているようです。

5年後、基幹系システムは刷新できなくなる

「基幹系システムの構築を担えるITエンジニアが急速に減っている」のだそうです。それは、「基幹系システムの構築は多くの企業が実施済みで、もはや刷新需要しかない。ならば新しい分野であるDXやAIなどに人員をシフトしよう」ということから、「ITベンダーは今、デジタル変革(DX)などの新分野や、AI(人工知能)などの新技術へ対応するための人員を急激に増やしている」からだと続きます。まとめると、

  • 基幹系システムの構築は多くの企業が実施済みで、もはや刷新需要しかない
  • 基幹系を担うITエンジニアが高齢化している
  • ITベンダーは新規分野に人員を充当しており、以前からある基幹系システムを手掛ける部門になかなか若手を投入しない
  • 若手ITエンジニアにとっても、技術的なイノベーションの少ない基幹系システムの構築は、魅力的ではない
  • 基幹系システムの構築を習得するのは難易度が高く、時間がかかる

ということで、なるほど、これでは基幹系エンジニアは減る一方でしょう。(しかし、DXって基幹系も含む話なんじゃないかと思うのですが。。)

しかし記事でも、「だが、どのようにDXが進んだとしても、企業から基幹系システムがなくなることはない」としており、結果として「今から5年後、DX推進のために基幹系システムを刷新したくても、刷新できないユーザー企業が増えそうだ。」ということです。これは、ユーザー企業にとっては一大事です。

こうなると、ユーザー企業は自衛のためにも自社で基幹系エンジニアを育て、保持しなければなりません。人材を確保した上で、DXに取り組むという流れになるでしょう。

経産省も後押し

実はこの人材の移動を昨年「2025年の崖」を警告した経産省も後押ししています。崖を回避し、デジタルトランスフォーメーションを実現する上でも人材の移動が重要になるというシナリオです。

IT人材の年収は1200万円に、「2025年の崖」回避シナリオ

この記事の図に、現在72:28とベンダーに偏っている人材の分布を、2025-30年までに50:50に是正し、年収も今の2倍にするという目標が掲げられています。「2025年の崖」のレポートと同様、企業に注文を出す異例の内容ですが、

DXレポートで示した素案に関するユーザー企業やITベンダーとの意見交換を踏まえて案を作成。パブリックコメントには100件弱の意見が集まったという。

とあるように、業界の意見も反映されているようです。経産省の考えは、米国型の人材分布に移行し、ユーザー企業を活性化させることでDXを推進し、崖を回避するということなのでしょう。

Comment(1)

コメント

iso

この記事における「ユーザー企業」って年商どれくらいの会社なんですかね?
囲い込んだ技術者と言っても当初はベンダー時代に習い覚えたスキルで既存の基幹系システムの面倒を見ることもできるでしょうけど、
自力で刷新となるとサーバーも自分で立てなけりゃいけない(あるいはクラウド契約しなきゃならない)し、その時点での最新技術や製品知識ももってなきゃならない。
でも所謂中小企業は、普段IT技術者に新技術の取得や新インフラ構築のためのテスト環境購入など直接業務に関係しないことにお金は出してくれませんよね。
だからこそのシステム刷新はベンダーへ丸投げだったわけで、ベンダーがそれまで担っていた従業員の教育スキルアップを「ユーザー企業は自衛のためにも自社で基幹系エンジニアを育て、保持しなければなりません。」となるわけですよね?
そう考えると、当面「IT技術者を囲い込んでみたものの、何年かしたらだれも新技術に追いつけなくてベンダーも相手してくれず、いつまで経ってもレガシーを使い続ける」って悲惨な将来が見えてくるのですが。
アメリカみたいに、googleやAmazonで仕事を覚えてきました!なんて技術者が掃いて捨てるほど転職してくれるならともかく、従業員教育に金をかけたがらない日本の中小企業はえらいことになりそうな気がします。

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