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未だに残るレガシー IEの功罪

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先日、山本一郎さんが

マイクロソフト「IE依存」せざるを得ない現場の苦悩

という記事を書いていました。山本さんは

IEに依存した古くさいシステムを使い回してぼろい商売をやってる国内ベンダーと、そうした業者にだまされてIEに依存したシステムを導入・継続利用しているユーザーは、そろそろIEを使うの諦めてくれという話

と書いていますが、知らない人には何がどう問題なのか、わかりにくいですよね。ちょっと捕捉してみようと思います。

website_normal.png

IEでなければ動かないWebサイトが未だに多数残っている

問題の詳細は以下の通りです。

  • Webブラウザの機能はHTMLという規格で決められており、どのブラウザでも同じ機能を持つはず
  • しかし、MicrosoftはIEに勝手な機能拡張を施した
  • その拡張機能は便利なため、それを使ったサイトが多数生まれた
  • Microsoftは3年前に標準規格に準拠したブラウザ「Edge」をリリースし、IEからの移行を呼びかけている
  • しかし、EdgeにはIEの便利な機能は含まれておらず、サイトの改修が必要になる
  • 未だに多くのサイトが改修を拒んでおり、MicrosoftはIEをやめたくてもやめられない状況に陥っている

そこで冒頭の山本さんの記事に繋がるわけですね。

ここで疑問なのは、MicrosoftはなぜIEに勝手な機能拡張を行ったのか、ということです。(「勝手」というのは、必要な手順を踏まずに、という意味です)それを知るためには、歴史を振り返らなければなりません。

Webブラウザの歴史 ~第1次ブラウザ戦争

むかーしむかし、そう、20年以上前、Windows95が世に出る前は、Webブラウザと言えばNetScape Navigatorでした。MicrosoftはWindows95と同時にNetScape対抗のWebブラウザとしてInternet Explorerをリリースしたのですが、後にOSにバンドルされるようになるIEは、Windowsの爆発的な普及と共にシェアを高めていきました。この辺の経緯はWikipediaにも書かれています。

ここまでは、Microsoftがいつもの抱き合わせ商法で競合を潰した、ということなのですが、その先が若干違っています。インターネット上でオンラインバンキングやEコマースなどのサービスが普及し、企業のイントラネットのクライアントもWindowsおよびIEで構築される(Webシステム)ようになると、当時のWebブラウザの機能ではいろいろ足りない部分が出てきます。もともとWebブラウザというのは、閲覧ソフトという名の通り、ネットの向こうのコンテンツを「表示する」ためのものであり、ユーザーインターフェースを作ったり、認証などを安全に行うことまで考えられてはいません。

Webブラウザの機能を決めているのは、W3Cという標準化団体が決めているHTMLという規格です。しかしこのHTMLは、1999年にバージョン4.01を出した後でリリースが止ってしまいました。(理由についてはいろいろ話がありますが、今回は省略)Microsoftは、新しい規格を作らない標準化団体と、機能拡張を求めるユーザーとの板挟みになってしまいました。(と推測されます)

Microsoftが行った機能拡張

ここでMicrosoftは、本来であれば、インターネットのコミュニティに働きかけてHTMLの機能拡張を行い、W3Cに提案して標準化すべきでした。しかし、Microsoftはそうはせず、独自にIEの機能拡張を行うという(コミュニティから見れば)暴挙に出たのです。Microsoftにしてみれば、コミュニティを巻き込むと時間がかかりますし、2000年頃にはIEは市場の9割以上を占めるブラウザになっていましたから、IEが事実上の標準であるという意識もあったのかもしれません。この頃は「デファクトスタンダード」といって、規制団体が決めなくても、圧倒的なシェアをとれば勝ち、という風潮があったことは事実です。私見ですが、こういったことが原因でMicrosoftはネットコミュニティと折り合いが悪くなっていったように思います。

Microsoftの名誉のために言っておくと、こうして追加された機能は、確かにユーザーにとって便利だったということです。この機能を使ったサイトが多く生まれた事実が、それを裏付けています。(そしてそれが、今に至る問題を引き起こしたわけですが)

昔からPCを使っている人は、「このサイトはIEでないと正しく表示されません」というサイトがあったことを覚えていらっしゃるでしょう。事情をよくわかっていないと、「なんだ、NetScapeのバグなのか?」と思う人が多かったのですが、実はNetScapeこそが正しく、IEのほうが互換性を無視していたのです。しかし実際には、シェアの上で圧倒しているIEが正義に見えてしまった、ということなのでしょう。(まあ、バグも多かったですが)

時代はHTML5へ

しかし、10年近く続いたIEの時代も終わりを迎えます。先のWikipediaにもあるように、クラウドが普及し始めた2005年前後から、クラウド用のクライアントとしてのブラウザが見直され、「W3Cの標準規格に準拠した」ブラウザが次々にリリースされました。NetScapeから生まれたFirefoxのシェアが伸び、Chromeがリリースされ、iPhoneの普及とともにSafariのシェアも高まりました。

同時期にAppleなどを中心とするグループがHTMLの機能拡張を進め、これが今のHTML5に繋がりますが、正式な勧告(最終決定)は2014年にずれ込みました。しかし、これは実に15年ぶりのHTMLの新バージョンだったのです。インターネットのような世界で、根幹となる規格が15年間バージョンアップされなかったというのは驚くべきことです。

このような流れに押され、当初はHTML5への取り組みに消極的だった(ように見えた)Microsoftも、徐々に独自規格から標準規格に移行しました。このため、IE8以降は徐々に旧バージョンとの互換性が失われ、対応パッチや互換モードを搭載するなど、話が非常にややこしくなっていきました。そしてついにMicrosoftはIEをディスコンにし、Edgeというまったく新しいHTML5対応ブラウザをWindows10に標準搭載したのです。

MicrosoftのIEサポートチームのブログでも、標準化のメリットを訴えています。

Microsoft Edge は最新の Web 標準で定義される機能を利用したリッチなブラウジング体験をユーザーに提供することや、相互運用性、つまり、Google Chrome や Apple Safari、Mozilla Firefox とも相互に運用できるブラウザであること、PC の Web サイトはもちろん、スマートフォンやタブレットを前提に制作された Web サイトとも相互に運用できることをコンセプトに、開発がおこなわれています。

本当なら、とっくにサポートを打ち切っていてもおかしくありません。しかし、サポートをやめたら、法人ユーザーからそっぽを向かれる恐れもあると考えているのかもしれませんね。

自分で蒔いた種とはいえ、Windows10への移行を急ぐMicrosoftにとって、意外な足手まといとなるのかも知れません。

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