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Apple が切り開いた IoT の新しいルール

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先週、Apple 恒例の新製品発表が行われ、iPhone X/8/8plus と、新しい Apple Watch Series 3 などが発表されました。iPhone についてはまた書きますが、今回は Apple Watch の LTE 対応について、発表の意味について書いてみたいと思います。

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Apple が交渉して勝ち取った携帯電話業界の新しいルール

今回の新製品発表では Apple Watch が LTE に対応して、単体でメールを読めたり、電話できたりできるということがフォーカスされていますが、私が思ったのは、これは IoT 時代へ向けて Apple が新しい携帯電話の利用方法を発想し、さらに実際に世界中のオペレータにその条件を呑ませてサービスの開始に漕ぎ着けた、という意味で画期的なことだということです。

12日の発表を受けて、林信行さんが日経に寄稿した記事が出ていました。

アップル、通信に新機軸

日経って、記事を削除しちゃうので、少し長くなりますが以下に引用しておきます。

 アップルはハードとソフトのメーカーであると同時に業界のルールメーカーだ。圧倒的販売力を武器に世界のインフラ企業と交渉し業界の新しいルールをつくる。今回はアップルウオッチとアップルTVで新ルールをつくった。
 前者では世界中の電話事業者と話し合い、1つの回線(電話番号)をiPhoneとアップルウオッチの双方で共有できるようにした。iPhoneとアップルウオッチの双方に同時に着信し、どちらでも通話できる。
 1つの回線を複数の携帯電話やIoT(あらゆるモノをネットにつなぐ)機器との間で共有する試みは、すでにNTTドコモが何度か取り組んできた。だが、特殊な条件と操作が必要で一般的ではなかった。
 アップルはこれを世界の20の電話事業者と契約し、一般化する。今後は他のIoT機器でもアップルウオッチで使われているものと同様の「eSIM(電話の契約情報が入ったSIMチップの内容を更新可能にしたもの)」を使い、月額電話料に追加料金を加えて回線を共有するスタイルが広がるかもしれない。
 アップルTVでは、「iTunes(アイチューンズ)」ストアなどで買い取りやレンタルができる映画を順次、4Kの画質にすると発表した。すでにその映画をハイビジョン画質で購入している場合、無償で4K版に交換できるように、映画会社などから了承を取り付けたようだ。4K映像コンテンツを広める起爆剤となるだろう。

これまで、電話番号はひとつのデバイスに割り当てられるもので、同じ番号を複数のデバイスで共有するということはありませんでした。林さんの記事にあるように、試みはあったけれども、実現はしていなかったのです。それを、今回 Apple は世界中のオペレータと交渉し、実現に漕ぎ着けたのです。これは業界を知るものにとっては凄いことで、このことの凄さについては林さんのツイートにもあります。これも一応引用しておきましょう。

ちなみにApple Watch担当してる人(実はiPodの生みの親でもある)見つけて機能の話を差し置いて「世界で20社との電話会社とこんな交渉したんだね。大変だったね」と話したら「よくわかってくれたね」といった表情で「電話会社の人たちも頑張ってくれた」と嬉しそうにしていました;)

これが意味するところは、今後 IoT が普及する上での障害(それも大きな)のひとつが取り除かれたということです。IoT デバイスには様々な大きさのものがありますが、小さいものはほとんどが NFC に頼らざるを得ないでしょう。しかし、Apple Watch のような、ちょっと頑張ればモバイル回線に繋ぐことができる、しかし単体で回線契約するのはコストが合わない、という微妙なサイズのデバイスにとって、今回のスキームが使えるようになったことは大きいと思います。

#ちなみに私は、Apple Watch に LTE 回線は必要無いと思っています。私の使い方で LTE が必要な状況を想定しにくいですし、本気で使ったらバッテリーが持たないでしょう。

#さらに、オペレータが新しい仕組みを簡単に導入できないのは、オペレータが怠慢なのではなく、インフラなだけにうかつな変更をすると影響が大きすぎる、ということです。デバイスと電話番号の組み合わせは、今では2要素認証の重要なパーツにもなっていますし、変えるためにはかなりいろいろ考えないといけないでしょうね。

これまでも、そしてこれからも

思えば、iPhone の登場自体が、当時の携帯電話業界の常識を破るものでした。それまで一部を除き従量制が当たり前だった通信料が、iPhone ではパケット定額制が導入されたのです。(しかも1万円以下という低価格で)これも、当時 Jobs が世界中のキャリアと交渉の末(なかば強引に)対応させたと記憶しています。音楽のインターネット配信でも、著作権を盾に嫌がる業界をねじ伏せましたよね。

最近デバイスの進化が鈍ってきている、などと言われることもありますが、新機能だけがスマホの価値ではありません。Jobs 亡き後も Apple がこのような業界慣行の破壊を続けて行くのならば、まだまだ Apple は頑張ってくれると思います。

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